ISO45001解説シリーズ第8回:ISO45001 箇条10「改善」とは?不適合・是正処置・継続的改善を初心者向けにやさしく解説

ISO45001

  1. はじめに|箇条10は「問題を責める」ためではなく、次に活かすための仕組み
  2. 目次
  3. 1. ISO45001箇条10「改善」の全体像
  4. 2. 改善とは何か|小さな気づきも改善の入口
  5. 3. 不適合・是正処置の違いをやさしく整理
    1. インシデントとは
    2. 不適合とは
    3. 是正処置とは
  6. 4. 「応急対応」と「是正処置」を分けて考える
  7. 5. 労働災害・ヒヤリハットを改善につなげる6ステップ
    1. ステップ1|発生状況を確認する
    2. ステップ2|応急対応を行う
    3. ステップ3|原因を確認する
    4. ステップ4|是正処置を決める
    5. ステップ5|実施状況を確認する
    6. ステップ6|効果を確認する
  8. 6. 改善の材料はどこから見つかる?
    1. 労働災害・ヒヤリハット
    2. 職場巡視
    3. 内部監査
    4. 安全衛生委員会・マネジメントレビュー
  9. 7. 是正処置記録の書き方
    1. 是正処置記録の記入例
    2. 記録作成で注意したいこと
  10. 8. 継続的改善とは何か
  11. 9. 継続的改善を進める5ステップ
    1. ステップ1|改善の材料を集める
    2. ステップ2|優先順位を決める
    3. ステップ3|目標や計画に反映する
    4. ステップ4|実施状況を確認する
    5. ステップ5|次の改善につなげる
  12. 10. 審査で確認されやすいポイント
    1. 審査での説明例
  13. 11. 初めて担当する方がつまずきやすい5つのポイント
    1. つまずき1|不適合を「悪いこと」と捉えすぎる
    2. つまずき2|原因分析が「作業者の不注意」で止まる
    3. つまずき3|対策が注意喚起だけになる
    4. つまずき4|効果確認を忘れる
    5. つまずき5|改善がISO事務局だけの仕事になる
  14. 12. 箇条10に関連して整理しておきたい記録・資料
  15. 13. チェックリスト
    1. インシデント・不適合への対応
    2. 原因分析
    3. 是正処置
    4. 継続的改善
  16. 14. よくある質問
    1. Q1. 不適合とは、外部審査で指摘されたことだけですか?
    2. Q2. ヒヤリハットも是正処置が必要ですか?
    3. Q3. 是正処置と応急対応は何が違いますか?
    4. Q4. 是正処置の効果確認はいつ行えばよいですか?
    5. Q5. 継続的改善とは、毎年大きな改善をしなければならないという意味ですか?
    6. Q6. 是正処置報告書には何を書けばよいですか?
    7. Q7. 同じ不適合が繰り返される場合はどうすればよいですか?
  17. 15. まとめ|箇条10は職場を少しずつ良くするための仕組み

はじめに|箇条10は「問題を責める」ためではなく、次に活かすための仕組み

ISO45001の箇条10「改善」と聞くと、少し身構えてしまう方もいるのではないでしょうか。

「不適合」「是正処置」「継続的改善」といった言葉は、ISOに慣れていない担当者にとってはやや堅く感じられます。

特に、労働災害やヒヤリハット、審査での指摘があると、「誰の責任なのか」「どの書類を作ればよいのか」という方向に意識が向きがちです。

しかし、ISO45001の箇条10で大切なのは、誰かを責めることではありません。

大切なのは、次のような流れを組織として持つことです。

問題や気づきを見つける
→ 原因を確認する
→ 対策を決める
→ 実施する
→ 効果を確認する
→ 次の安全衛生活動に活かす

つまり箇条10は、「失敗を記録するための箇条」ではなく、職場をより安全で健康的な状態に近づけるための箇条です。

この記事では、ISO45001の箇条10「改善」について、初めて担当する方にも分かりやすいように、不適合・是正処置・継続的改善の違いと、実務での進め方を整理します。

中小企業の総務・人事・ISO事務局・安全衛生担当者・現場管理者の方に、明日から使える内容としてお読みいただければと思います。


目次

  1. ISO45001箇条10「改善」の全体像
  2. 改善とは何か|小さな気づきも改善の入口
  3. 不適合・是正処置の違いをやさしく整理
  4. 「応急対応」と「是正処置」を分けて考える
  5. 労働災害・ヒヤリハットを改善につなげる6ステップ
  6. 改善の材料はどこから見つかる?
  7. 是正処置記録の書き方
  8. 継続的改善とは何か
  9. 継続的改善を進める5ステップ
  10. 審査で確認されやすいポイント
  11. 初めて担当する方がつまずきやすい5つのポイント
  12. 箇条10に関連して整理しておきたい記録・資料
  13. チェックリスト
  14. よくある質問
  15. 内部リンク候補
  16. 法令・公的情報を確認する際の参照先
  17. まとめ|箇条10は職場を少しずつ良くするための仕組み

1. ISO45001箇条10「改善」の全体像

ISO45001の箇条10は、大きく次の3つのテーマで理解すると分かりやすくなります。

箇条テーマ実務で考えること
10.1一般改善の機会を見つけ、安全衛生パフォーマンスを高める
10.2インシデント、不適合及び是正処置事故・ヒヤリハット・不適合が起きたときに対応し、原因を調べ、再発防止を行う
10.3継続的改善労働安全衛生マネジメントシステムを継続的に良くしていく

実務ではシンプルに、次のように捉えると理解しやすいでしょう。

箇条10は、安全衛生活動の結果から学び、次の対策に反映するための仕組みです。

ここでいう「結果」には、次のようなものが含まれます。

  • 労働災害
  • 休業災害・不休災害
  • ヒヤリハット
  • 危険源の報告
  • 職場巡視の指摘
  • 内部監査の指摘
  • 外部審査の指摘
  • 法令点検で見つかった不備
  • 安全衛生委員会で出た意見
  • マネジメントレビューで出た課題
  • 作業者からの改善提案
  • 請負業者・協力会社からの指摘

箇条10は、箇条9「パフォーマンス評価」と強くつながっています。

箇条9では、監視測定・内部監査・マネジメントレビューによって活動状況を確認します。

箇条10では、その結果を受けて必要な改善を行います。

つまり、箇条9が「確認する」箇条だとすれば、箇条10は「確認した結果を次に活かす」箇条と考えると分かりやすいでしょう。


2. 改善とは何か|小さな気づきも改善の入口

ISO45001における改善とは、労働安全衛生マネジメントシステムや職場の安全衛生状態をより良くすることです。

改善というと、大きな設備投資や制度変更を思い浮かべるかもしれません。

もちろん、設備の安全化や作業環境の改善も重要です。

しかし、改善はそれだけではありません。

中小企業の現場では、次のような小さな改善も立派な改善活動です。

  • 通路の段差に表示を付ける
  • 床の濡れをすぐ拭き取れるよう清掃用具を近くに置く
  • フォークリフトと歩行者の動線を分ける
  • 重量物を台車で運ぶルールに変える
  • 作業手順書に写真を追加する
  • 保護具の置き場を分かりやすくする
  • ヒヤリハット報告の様式を簡単にする
  • 暑熱期前に熱中症対策を確認する
  • 化学物質のSDSをすぐ見られる場所に整理する
  • 新人向けの教育資料を見直す

改善の入口は、事故や不適合だけではありません。

ヒヤリハット、職場巡視、作業者の声、内部監査の気づき、法令改正、設備更新のタイミングなども改善のきっかけになります。

特にISO45001では、働く人の協議及び参加が重視されます。

実際に作業している人の「ここが危ない」「この手順は分かりにくい」「この設備は使いにくい」という声は、改善の重要な情報源です。


3. 不適合・是正処置の違いをやさしく整理

箇条10でつまずきやすいのが、用語の違いです。

特に、「インシデント」「不適合」「是正処置」は混同されやすい言葉なので、ここで整理しておきましょう。

用語やさしい説明
インシデント事故や災害につながった、またはつながる可能性があった出来事転倒災害、はさまれ事故、薬品漏えい、ヒヤリハット
不適合決めたルールや要求事項を満たしていない状態点検未実施、教育記録なし、保護具未着用、手順書と実作業の不一致
是正処置不適合や問題の原因を取り除き、再発を防ぐための処置手順見直し、教育、設備改善、点検方法変更、責任者明確化

インシデントとは

インシデントとは、労働災害やヒヤリハットなど、安全衛生上の出来事を広く含む言葉です。

実際にけがが発生した場合だけでなく、けがには至らなかったが危なかった出来事も含めて考えることが大切です。

例えば、次のようなものです。

  • 作業者が濡れた床で滑って転倒した
  • 荷物が崩れたが、けが人はいなかった
  • フォークリフトと歩行者が接触しそうになった
  • 薬品容器から少量の漏えいがあった
  • 高所作業で工具を落としそうになった
  • 暑熱作業中に体調不良者が出た
  • 重量物を持ち上げた際に腰を痛めた

ヒヤリハットも重要なインシデントとして扱うと、重大災害を未然に防ぐ手がかりになります。

不適合とは

不適合とは、要求事項を満たしていない状態のことです。

ここでいう要求事項には、ISO45001の要求事項だけでなく、自社で決めたルール、法令、安全衛生手順、該当する場合は顧客や元請会社の要求なども含まれます。

例えば、次のような状態です。

  • 法令で必要な点検を実施していなかった
  • 作業主任者の選任が漏れていた
  • 特別教育の記録が残っていなかった
  • リスクアセスメント表が古い設備のままだった
  • 作業手順書と現場の作業が違っていた
  • 内部監査で決めた是正処置が未完了だった
  • 安全衛生委員会で決めた対策が実施されていなかった
  • 請負業者への安全ルール周知が行われていなかった

不適合は、必ずしも労働災害が起きた後に見つかるものではありません。

災害が起きる前に不適合を見つけて改善できれば、それは大きな予防になります。

是正処置とは

是正処置とは、見つかった不適合や問題について、原因を調べ、再発を防ぐために行う処置です。

単に「その場で直す」だけでは、是正処置としては不十分な場合があります。

例えば、通路に物が置かれていた場合を考えてみましょう。

その物をどかすことは必要です。

しかし、それだけでは、また同じ場所に物が置かれるかもしれません。

是正処置としては、次のような原因まで確認します。

  • なぜ通路に物が置かれたのか
  • 一時置き場が不足しているのか
  • 置き場の表示が分かりにくいのか
  • 作業者がルールを知らなかったのか
  • 置かないと作業が回らない状態なのか
  • 管理者の確認が不足していたのか

このように、表面的な対応で終わらせず、原因を確認して再発防止につなげることが是正処置のポイントです。


4. 「応急対応」と「是正処置」を分けて考える

箇条10を実務に落とし込むうえで大切なのが、応急対応と是正処置を分けて考えることです。

区分内容
応急対応目の前の危険や被害を止めるための対応けが人の救護、設備停止、漏えい回収、通路の障害物撤去
是正処置原因を取り除き、再発を防ぐための対応手順見直し、設備改善、教育、点検方法変更、表示改善

どちらも重要ですが、目的が違います。

例えば、機械のカバーが外れた状態で作業されていた場合を考えます。

まず必要なのは、作業を止めてカバーを取り付けることです。

これは応急対応です。

しかし、それだけで終わると再発するかもしれません。

是正処置としては、次のような点を確認します。

  • なぜカバーが外されていたのか
  • 清掃や調整のために外す必要があったのか
  • カバーを外した後、戻すルールがあったか
  • カバーを付けたままだと作業しにくい構造なのか
  • 点検で発見できる仕組みがあったか
  • 管理者は状態を確認していたか
  • 作業者は危険性を理解していたか

この確認を通じて、設備改善、手順変更、教育、点検表の見直しなどにつなげます。

箇条10では、単に「直しました」ではなく、「なぜ起きたのか」「再発を防ぐには何を変えるのか」まで考えることが重要です。


5. 労働災害・ヒヤリハットを改善につなげる6ステップ

労働災害やヒヤリハットが発生したときは、次の流れで進めると整理しやすくなります。

ステップ1|発生状況を確認する

まず、何が起きたのかを確認します。

この段階では原因を決めつけず、事実を集めることが大切です。

確認する項目の例は次のとおりです。

  • いつ発生したか
  • どこで発生したか
  • 誰が関係していたか
  • どの作業中だったか
  • どの設備、工具、材料が関係したか
  • けがや健康障害の有無
  • 周囲の作業状況
  • 天候、照明、床面、騒音、温度などの環境
  • 作業手順やルールの有無
  • 教育・訓練の実施状況

ポイントは、「作業者が不注意だった」で終わらせないことです。

不注意という言葉だけでは、再発防止につながりにくくなります。

なぜ不注意が起きやすい状況だったのかまで確認することが大切です。

ステップ2|応急対応を行う

次に、被害の拡大を防ぐ対応を行います。

  • けが人の救護
  • 作業の停止
  • 設備の停止
  • 危険区域への立入禁止
  • 漏えい物の回収
  • 関係者への連絡
  • 必要に応じた行政・関係先への報告
  • 類似作業の一時点検

応急対応は迅速さが重要です。

ただし、応急対応だけで終わらせず、その後に原因分析と是正処置につなげます。

ステップ3|原因を確認する

原因分析では、「直接原因」と「根本原因」を分けて考えると整理しやすくなります。

区分内容
直接原因事故や不適合に直接つながった原因床が濡れていた、カバーが外れていた、保護具を着けていなかった
根本原因直接原因を生んだ背景清掃ルールが曖昧、点検がない、教育不足、設備構造の問題、作業量が多すぎる

例えば、「保護メガネを着けていなかった」という直接原因があったとします。

その背景には、次のような根本原因があるかもしれません。

  • 保護メガネの必要性を教育していなかった
  • 保護メガネの置き場が遠かった
  • 曇りやすく、作業しにくかった
  • 管理者が着用状況を確認していなかった
  • ルールが掲示されていなかった
  • 作業手順書に記載がなかった

根本原因まで確認することで、実効性のある是正処置につながります。

ステップ4|是正処置を決める

原因を確認したら、再発防止のための是正処置を決めます。

是正処置の例は次のとおりです。

  • 作業手順書を見直す
  • 点検表に確認項目を追加する
  • 設備にカバーやインターロックを設置する
  • 表示や標識を改善する
  • 作業場所のレイアウトを変更する
  • 保護具を使いやすいものに変更する
  • 教育内容を見直す
  • 作業者へ再教育を行う
  • 類似設備・類似作業を横展開で確認する
  • 請負業者へのルール周知を強化する
  • 作業前ミーティングの確認項目を追加する
  • 必要に応じてリスクアセスメントを見直す

ここで大切なのは、対策が原因とつながっていることです。

原因が設備構造にあるのに教育だけで終わらせると、再発防止として弱くなることがあります。

原因がルールの未整備にあるのに注意喚起だけで終わらせても、同じ問題が繰り返される可能性があります。

ステップ5|実施状況を確認する

是正処置を決めたら、実施されたかを確認します。

よくある失敗は、報告書に「教育を実施する」「手順を見直す」と書いたまま、完了確認が曖昧になることです。

確認する項目の例は次のとおりです。

  • 誰が実施したか
  • いつ実施したか
  • 手順書は改訂されたか
  • 教育は実施されたか
  • 教育記録は残っているか
  • 設備改善は完了したか
  • 点検表は変更されたか
  • 現場で新しいルールが使われているか

実施したことが分かる記録を残しておくと、内部監査や外部審査でも説明しやすくなります。

ステップ6|効果を確認する

是正処置は、実施して終わりではありません。

その対策が本当に効いているかを確認することが重要です。

効果確認の例は次のとおりです。

  • 同じ不適合が再発していないか
  • 類似作業で同じ問題が起きていないか
  • 作業者が新しい手順を理解しているか
  • 点検表が継続的に使われているか
  • ヒヤリハット件数や内容に変化があるか
  • 職場巡視で改善状態が確認できるか
  • 内部監査で同じ指摘が出ていないか

効果確認まで行うことで、是正処置が「書類上の対応」ではなく、実際の改善につながります。


6. 改善の材料はどこから見つかる?

ISO45001の不適合や改善の機会は、外部審査だけで見つかるものではありません。

日常の活動の中にも数多くあります。

労働災害・ヒヤリハット

労働災害やヒヤリハットは、現場のリスクを見直す重要なきっかけです。

けがが起きたかどうかだけでなく、「なぜ起きかけたのか」を確認することが重要です。

特にヒヤリハットは、重大災害の前兆として扱うことができます。

「けががなかったから問題なし」とせず、必要に応じて原因を確認し、改善につなげましょう。

職場巡視

職場巡視では、日常の小さな不備が見つかります。

  • 通路に物が置かれている
  • 保護具が使われていない
  • 表示が見えにくい
  • 作業台の高さが合っていない
  • 危険物や薬品の保管が乱れている
  • 点検済み表示がない
  • 立入禁止区域が曖昧
  • 清掃が不十分

これらは、その場で直せるものもあります。

しかし、繰り返し発生する場合は、是正処置として原因を確認する必要があります。

内部監査

内部監査では、仕組みと実際の運用のズレが見つかることがあります。

例えば、次のような指摘です。

  • 手順書では毎月点検となっているが、実際には実施されていない
  • 教育訓練の記録が残っていない
  • リスクアセスメント表が古い設備のままになっている
  • 法令点検の実施状況が確認できない
  • 是正処置の効果確認が行われていない
  • 請負業者への安全教育記録がない

内部監査の指摘は、審査前の準備のためではなく、自社の仕組みを改善するための材料として活用することが大切です。

安全衛生委員会・マネジメントレビュー

安全衛生委員会では、現場からの声や改善提案が集まります。

マネジメントレビューでは、経営層が安全衛生活動全体を確認し、より大きな改善課題が見つかることがあります。

例えば、次のような課題です。

  • ヒヤリハット報告が少なく、現場の声が集まっていない
  • 是正処置の完了が遅れがちである
  • 化学物質管理が担当者任せになっている
  • 安全教育が新人教育に偏っている
  • 高年齢労働者への配慮が不足している
  • 請負業者や協力会社の管理が弱い
  • 同じ種類の災害が繰り返されている

マネジメントレビューで出た課題は、次年度の安全衛生目標や改善計画につなげると、パフォーマンス評価と改善が自然につながります。


7. 是正処置記録の書き方

是正処置記録は、難しい様式である必要はありません。

大切なのは、次の流れが分かることです。

何が起きたか
→ どう対応したか
→ 原因は何か
→ 再発防止策は何か
→ 誰がいつまでに行うか
→ 実施されたか
→ 効果があったか

是正処置記録の記入例

項目記載例
発生日2026年○月○日
発生場所製造1課 組立エリア
内容作業者が部品箱につまずき、転倒しそうになった。けがはなかった。
区分ヒヤリハット
応急対応部品箱を撤去し、通路を確保した。周辺エリアも確認した。
直接原因通路上に部品箱が一時置きされていた。
根本原因一時置き場が不足しており、置き場所のルールが明確でなかった。繁忙時に通路へ仮置きする状態が常態化していた。
是正処置一時置き場を新設し、床面表示を行う。通路への仮置き禁止を朝礼で周知する。職場巡視チェックリストに通路確保を追加する。
担当者製造課長、安全衛生担当
期限2026年○月○日
実施確認一時置き場設置、床面表示、朝礼教育を実施。巡視表を改訂した。
効果確認1か月後の巡視で通路への仮置きなし。作業者からも一時置き場が使いやすいとの意見あり。
横展開製造2課、倉庫エリアでも一時置き場と通路表示を確認する。

このように、ヒヤリハットであっても、原因と対策を整理しておくと、改善活動として説明しやすくなります。

記録作成で注意したいこと

  • 「注意する」「徹底する」だけで終わらせない
  • 原因と対策がつながっているか確認する
  • 担当者と期限を明確にする
  • 実施確認と効果確認を分けて記録する
  • 類似作業への横展開を検討する
  • 働く人の意見を確認する
  • 必要に応じてリスクアセスメントを見直す
  • 必要に応じて手順書、教育、点検表を改訂する

注意喚起は必要な場合もあります。

しかし、それだけに頼ると、人の記憶や意識に依存した対策になりがちです。

できるだけ、設備・レイアウト・手順・点検・教育・管理体制など、仕組みとして再発を防ぐ方法を検討しましょう。


8. 継続的改善とは何か

箇条10.3では、継続的改善が扱われます。

継続的改善とは、労働安全衛生マネジメントシステムを一度作って終わりにせず、継続して良くしていくことです。

もう少し実務的に言えば、会社の安全衛生活動が、自社のリスクや現場の実態に合い、実際に役立つものになるように、少しずつ見直し続けることです。

ここで大切なのは、「毎年大きな成果を出さなければならない」という意味ではないことです。

中小企業では、次のような取り組みも継続的改善に含めて考えることができます。

  • リスクアセスメントの対象作業を少しずつ広げる
  • ヒヤリハット報告を出しやすい様式に変える
  • 安全衛生委員会の議事録に担当者と期限を入れる
  • 内部監査の指摘を次年度目標に反映する
  • 安全教育資料を写真付きにする
  • 外国人労働者向けに多言語表示を整備する
  • 高年齢労働者に配慮した作業改善を行う
  • 熱中症対策を毎年見直す
  • 化学物質のSDS管理を一覧化する
  • 請負業者の入場時教育を標準化する

継続的改善は、単発の是正処置だけではありません。

安全衛生活動全体を少しずつ良くしていく考え方です。


9. 継続的改善を進める5ステップ

中小企業で継続的改善を進める場合は、難しい仕組みにしすぎないことが大切です。

次の5ステップで進めると、実務に落とし込みやすくなります。

ステップ1|改善の材料を集める

まず、改善の材料を集めます。

材料の例は次のとおりです。

  • 労働災害の記録
  • ヒヤリハット報告
  • 職場巡視の結果
  • 内部監査の結果
  • 外部審査の指摘
  • 安全衛生委員会の議事録
  • 作業者からの改善提案
  • 健康診断やストレスチェックの集計結果
  • リスクアセスメントの結果
  • 法令改正情報
  • 請負業者や協力会社からの情報

改善は思いつきだけで行うものではありません。

現場のデータや記録をもとに進めると、優先順位を説明しやすくなります。

ステップ2|優先順位を決める

改善テーマが多すぎると、どれも中途半端になりがちです。

次の視点で優先順位を決めましょう。

  • 重篤な災害につながる可能性があるか
  • 法令やその他の要求事項に関係するか
  • 同じ問題が繰り返されているか
  • 多くの働く人に影響するか
  • 現場からの要望が多いか
  • 少ない費用で効果が見込めるか
  • 経営層の判断や資源確保が必要か

すべてを一度に改善しようとせず、重点テーマを決めることが大切です。

ステップ3|目標や計画に反映する

重要な改善テーマは、安全衛生目標や年間安全衛生計画に反映します。

改善テーマ目標例
転倒リスクの低減主要通路10か所の段差・濡れ・障害物対策を年度内に完了する
ヒヤリハット活動の活性化月10件以上のヒヤリハットを収集し、改善事例を毎月共有する
化学物質管理の強化対象薬品のSDS確認とリスクアセスメントを年度内に完了する
非定常作業の安全対策清掃・点検・段取り替え作業の手順を見直す
請負業者管理の強化入場時安全教育と作業前確認の様式を標準化する

改善を目標や計画に反映すると、担当者、期限、評価方法が明確になります。

ステップ4|実施状況を確認する

計画した改善は、定期的に進捗を確認します。

確認の場としては、次のようなものがあります。

  • 安全衛生委員会
  • 月次会議
  • 職場巡視
  • 内部監査
  • ISO事務局会議
  • マネジメントレビュー

進捗確認では、「やったかどうか」だけでなく、「現場で使われているか」「効果が出ているか」も確認しましょう。

ステップ5|次の改善につなげる

改善活動の結果を確認したら、次の活動につなげます。

  • 効果があった対策を標準化する
  • 他部署へ横展開する
  • 効果が弱い対策を見直す
  • 新たに見つかった課題を次年度計画に入れる
  • 作業手順書や教育資料を更新する
  • マネジメントレビューで経営層に報告する

継続的改善とは、この繰り返しです。

一度で完璧にすることではなく、確認しながら少しずつ良くしていくことが重要です。


10. 審査で確認されやすいポイント

ISO45001の審査では、箇条10について次のような点を確認される場合があります。

  • 労働災害やヒヤリハットをどのように把握しているか
  • 不適合が発生したときの対応手順があるか
  • 是正処置で原因分析を行っているか
  • 対策が原因に合っているか
  • 是正処置の実施確認と効果確認をしているか
  • 同じ不適合が繰り返されていないか
  • 内部監査やマネジメントレビューの結果が改善につながっているか
  • 働く人の意見が改善に反映されているか
  • 継続的改善の実績を説明できるか
  • 改善内容がリスクアセスメントや安全衛生目標に反映されているか

審査で重要なのは、立派な様式があるかどうかだけではありません。

実際に、問題や気づきを改善につなげる流れが動いているかが確認されます。

審査での説明例

当社では、労働災害、ヒヤリハット、職場巡視、内部監査、マネジメントレビューの結果を改善の材料として扱っています。問題が見つかった場合は、応急対応を行ったうえで原因を確認し、必要に応じて是正処置を決めています。是正処置は担当者と期限を明確にし、実施確認と効果確認を行っています。また、重要な改善テーマは安全衛生委員会や年間安全衛生計画に反映し、継続的改善につなげています。

このように、情報の入口、対応、原因分析、対策、効果確認、次の計画への反映まで説明できると、箇条10の流れが伝わりやすくなります。


11. 初めて担当する方がつまずきやすい5つのポイント

つまずき1|不適合を「悪いこと」と捉えすぎる

不適合は、組織を責めるためのものではありません。

むしろ、問題を見つけて改善するための入口です。

不適合を隠す文化になると、重大災害の前兆を見逃すおそれがあります。

見つかった不適合を改善につなげる姿勢が大切です。

つまずき2|原因分析が「作業者の不注意」で止まる

「不注意だった」「確認不足だった」だけでは、再発防止につながりにくくなります。

なぜ不注意が起きたのか、確認しにくい作業だったのか、手順が分かりにくかったのか、時間に余裕がなかったのか、設備や環境に問題があったのかを確認しましょう。

つまずき3|対策が注意喚起だけになる

注意喚起は必要な場合もありますが、それだけでは弱いことがあります。

設備改善、作業方法の変更、表示、点検、教育、責任者の明確化など、仕組みとして再発を防ぐ方法を検討しましょう。

つまずき4|効果確認を忘れる

是正処置は実施して終わりではありません。

1週間後、1か月後、次回内部監査時など、効果確認のタイミングを決めておくとよいでしょう。

つまずき5|改善がISO事務局だけの仕事になる

改善はISO事務局だけで行うものではありません。

現場管理者、働く人、経営層、安全衛生担当者、必要に応じて産業医や外部専門家も関わります。

特に現場の働く人の声を取り入れることで、実効性のある改善につながります。


12. 箇条10に関連して整理しておきたい記録・資料

記録・資料確認するポイント
労働災害報告書発生状況、原因、対策、再発防止が整理されているか
ヒヤリハット報告報告が集まり、改善につながっているか
是正処置報告書原因分析、対策、担当者、期限、効果確認があるか
職場巡視記録指摘事項が放置されず、改善状況を確認しているか
内部監査報告書指摘事項に対する是正処置が完了しているか
マネジメントレビュー記録改善課題が経営層に報告され、判断されているか
安全衛生委員会議事録改善テーマ、担当者、期限、進捗が確認されているか
リスクアセスメント表災害や不適合の結果が見直しに反映されているか
教育記録是正処置としての教育が実施され、記録されているか
作業手順書・点検表改善内容が文書や現場運用に反映されているか

記録は、審査のためだけに残すものではありません。

同じ問題を繰り返さないため、また次の改善に活かすために使うものです。


13. チェックリスト

インシデント・不適合への対応

  • 労働災害、ヒヤリハット、不適合を報告する仕組みがある
  • 報告しやすい雰囲気がある
  • けがの有無だけでなく、危なかった出来事も把握している
  • 発生時の応急対応が決まっている
  • 必要な関係者へ連絡する流れがある
  • 必要に応じて作業停止や危険区域の立入禁止を行っている
  • 法令上の報告や届出が必要な場合に確認する仕組みがある

原因分析

  • 「作業者の不注意」だけで終わらせていない
  • 直接原因と根本原因を分けて確認している
  • 手順、設備、教育、作業環境、管理体制を確認している
  • 働く人の意見を聞いている
  • 類似作業・類似設備にも同じ問題がないか確認している
  • 必要に応じてリスクアセスメントを見直している

是正処置

  • 原因に合った是正処置を決めている
  • 注意喚起だけに偏っていない
  • 設備改善、手順変更、教育、点検方法変更などを検討している
  • 担当者と期限が明確になっている
  • 実施状況を確認している
  • 効果を確認している
  • 是正処置の結果を記録している

継続的改善

  • 労働災害やヒヤリハットを改善活動に活用している
  • 内部監査の結果を改善につなげている
  • マネジメントレビューの結果を次年度計画に反映している
  • 安全衛生委員会で改善状況を確認している
  • 働く人からの改善提案を活用している
  • 改善内容を他部署へ横展開している
  • 改善活動が安全衛生目標とつながっている

14. よくある質問

Q1. 不適合とは、外部審査で指摘されたことだけですか?

いいえ。外部審査の指摘だけではありません。

自社で決めた安全衛生ルール、法令、作業手順、点検、教育、内部監査などで要求事項を満たしていない状態も、不適合として扱う場合があります。

内部監査や職場巡視で早めに不適合を見つけ、改善につなげることが大切です。

Q2. ヒヤリハットも是正処置が必要ですか?

すべてのヒヤリハットに大きな是正処置が必要とは限りません。

ただし、重大災害につながる可能性があるもの、同じ内容が繰り返されているもの、多くの人に影響するものは、原因を確認し、必要な対策を検討することが望ましいです。

ヒヤリハットを軽く扱わず、優先度をつけて改善につなげましょう。

Q3. 是正処置と応急対応は何が違いますか?

応急対応は、目の前の危険や被害を止めるための対応です。

是正処置は、原因を取り除き、再発を防ぐための対応です。

例えば、通路の荷物をどかすのは応急対応です。

なぜ荷物が置かれたのかを確認し、一時置き場やルールを見直すのが是正処置です。

Q4. 是正処置の効果確認はいつ行えばよいですか?

内容によります。

表示の設置などはすぐ確認できます。

一方で、同じヒヤリハットが減ったか、新しい手順が定着したかは、1か月後や次回内部監査時などに確認する方が適しています。

Q5. 継続的改善とは、毎年大きな改善をしなければならないという意味ですか?

いいえ。毎年大きな設備投資が必要という意味ではありません。

小さな改善を継続し、リスクを少しずつ下げ、マネジメントシステムを実務に合う形に見直していくことが大切です。

Q6. 是正処置報告書には何を書けばよいですか?

少なくとも、発生内容、応急対応、原因、是正処置、担当者、期限、実施確認、効果確認が分かるようにしておくとよいでしょう。

様式の立派さよりも、原因と対策のつながりが分かることが重要です。

Q7. 同じ不適合が繰り返される場合はどうすればよいですか?

対策が原因に合っていない可能性があります。

注意喚起や再教育だけでなく、設備、作業方法、点検方法、管理体制、作業量、職場環境などを見直してみましょう。

必要に応じて、トップマネジメントの判断や資源の確保が必要になることもあります。

15. まとめ|箇条10は職場を少しずつ良くするための仕組み

ISO45001の箇条10「改善」は、不適合を責めるためのものではありません。

労働災害、ヒヤリハット、内部監査の指摘、職場巡視の気づき、働く人の意見などを、次の安全衛生活動に活かすための仕組みです。

大切なのは、次の流れを組織として持つことです。

問題や気づきを見つける
→ 応急対応を行う
→ 原因を確認する
→ 是正処置を決める
→ 実施する
→ 効果を確認する
→ 次の改善につなげる

「注意する」「徹底する」だけで終わらせず、原因に合った対策を考えることがポイントです。

また、改善はISO事務局だけの仕事ではありません。

トップマネジメント、現場管理者、働く人、安全衛生担当者が一緒に取り組むことで、ISO45001は書類上の仕組みではなく、実際に職場を守る仕組みになります。

箇条10をうまく活用し、労働災害やヒヤリハットを「失敗」で終わらせず、次の安全衛生活動に活かしていきましょう。


本記事は実務担当者向けの解説を目的としており、ISO45001の規格要求事項そのものの引用ではありません。正式な要求事項の確認には、規格原文および認証機関の見解をあわせてご参照ください。

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