【2026年6月時点】ISO45001改訂の最新動向|背景・国際検討状況・改訂ポイント・企業の準備事項を徹底解説

ISO45001

エグゼクティブサマリー

ISO45001は、2018年の初版発行以来、初となる本格的な改訂プロセスに入っている。2026年6月時点では、ISO/DIS 45001が国際照会段階にあり、最終発行は2027年になる見通しが強い。

今回の改訂は、ISO45001の基本構造を全面的に刷新するものではなく、現代の労働環境に合わせて、既存要求事項をより明確で実効的なものへ強化する方向で進んでいると考えられる。

主な改訂背景には、次のような国際的課題がある。

  • メンタルヘルス、心理社会的リスク、ウェルビーイングへの関心の高まり
  • 多様性・包摂、年齢、ジェンダー、障害、言語、雇用形態を踏まえた安全衛生管理
  • 気候変動が労働安全衛生に与える影響
  • リモートワーク、ハイブリッドワーク、AI、ロボット、自動化など新しい働き方・技術の普及
  • サプライチェーン、外部委託、請負・協力会社を含む安全衛生管理
  • ISOマネジメントシステム規格間の整合性、特にAnnex SL/Harmonized Structureとの整合

ただし、2026年6月時点で最終版は発行されていない。そのため、本レポートでは「確定情報」と「公開情報から見た予想」を区別して整理する。

企業が今取り組むべきことは、未確定の草案に先回りして文書を大きく書き換えることではない。むしろ、現行ISO45001の運用を点検し、メンタルヘルス、気候変動、リモートワーク、外部委託、安全文化といったテーマが、自社のOH&Sマネジメントシステムに実質的に組み込まれているかを確認することが重要である。


1. 本記事の前提と読み方

2026年6月時点で公開されているISO公式情報、ISO/TC283関連情報、海外認証機関・審査機関の公開情報をもとに、ISO45001改訂の動向を整理したものである。

重要な前提は次の3点である。

第一に、2026年6月時点では、ISO45001改訂版はまだ正式発行されていない。現在はDIS、すなわち国際規格案の段階である。

第二に、DIS段階の情報は重要だが、最終要求事項そのものではない。DIS後のコメント対応、修正、FDIS又は最終発行に向けた調整により、表現や要求の範囲が変わる可能性がある。

第三に、企業が今行うべき準備は、「改訂版の文言を予想して文書を作り替えること」ではなく、「現行システムの弱点を点検し、改訂で重視されそうなテーマを先に実務へ取り込むこと」である。

  1. 用語解説|ISO改訂プロセスの主な段階
  2. ISO45001改訂プロセスの現在地
  3. 3-1. メンタルヘルスと心理社会的リスク
  4. 補足コラム|心理社会的リスクとは何か
  5. 3-2. 多様性・包摂、D&I
  6. 3-3. 気候変動リスク
  7. 3-4. リモートワーク・ハイブリッドワーク
  8. 3-5. AI・デジタル化・新技術
  9. 3-6. Annex SL/Harmonized Structureとの整合
  10. 4-1. 2024年:改訂作業の本格化
  11. 4-2. 2025年:CD段階
  12. 4-3. 2026年:DIS段階
  13. 5-1. 全面的な構造変更より、既存要求事項の強化・明確化
  14. 5-2. 重点テーマはほぼ共通している
  15. 5-3. 早期のギャップ確認が推奨されている
  16. 6-1. 欧州
  17. 6-2. 北米
  18. 6-3. アジア
  19. 地域別の関心テーマ比較
  20. 7-1. リスクアセスメントの対象範囲の拡張
  21. リスクアセスメント対象領域の拡張
  22. 7-2. メンタルヘルス要求事項の明確化
  23. 7-3. 気候変動リスクの組み込み
  24. 7-4. リモートワーク・ハイブリッドワークへの対応
  25. 7-5. 安全文化とリーダーシップの強化
  26. 補足コラム|安全文化と安全風土の違い
  27. 7-6. 外部委託・サプライチェーン管理
  28. 7-7. 中小企業への適用容易性
  29. 7-8. Annex SL/Harmonized Structureとの整合
  30. 8-1. 草案対応ではなく、現行システムの実効性確認から始める
  31. 8-2. 改訂テーマ別のギャップ分析を行う
  32. 8-3. 内部監査テーマに組み込む
  33. 8-4. マネジメントレビューで改訂動向を扱う
  34. 8-5. 段階的な教育・周知を進める
  35. 9-1. 経営層向けチェックリスト
  36. 9-2. 安全衛生担当者・ISO事務局向けチェックリスト
  37. 9-3. 人事・総務部門向けチェックリスト
  38. 9-4. 現場管理者向けチェックリスト
  39. 9-5. 購買・外注管理部門向けチェックリスト
  40. 2026年下期
  41. 2027年
  42. 2027年後半~
  43. 2026〜2028年ロードマップのイメージ

用語解説|ISO改訂プロセスの主な段階

略称名称意味
WDWorking Draft作業原案。専門家間で初期案を検討する段階
CDCommittee Draft委員会原案。TC内でコメントを受け、内容を調整する段階
DISDraft International Standard国際規格案。ISOメンバーによる国際照会・投票の段階
FDISFinal Draft International Standard最終国際規格案。最終承認に向けた段階。省略される場合もある
ISInternational Standard国際規格として正式発行された段階

ISO45001改訂プロセスの現在地

*DIS段階は方向性が見え始める重要な段階だが、最終要求事項ではない。


2. ISO45001改訂の位置づけ

ISO45001は、組織が労働安全衛生リスクを管理し、OH&Sパフォーマンスを改善するための国際規格である。2018年版は、OHSAS 18001に代わる国際規格として発行され、ISOマネジメントシステム規格に共通する構造を採用した。

今回の改訂は、ISO45001:2018の発行後に生じた社会・技術・労働環境の変化を受けた、初の本格的な見直しである。

現行ISO45001:2018は、すでに組織の状況、リーダーシップ、働く人の協議及び参加、リスク及び機会、運用管理、パフォーマンス評価、改善といった重要な枠組みを備えている。そのため、次期改訂は規格全体の思想を変えるというより、既存の枠組みに現代的なOH&S課題をより明確に組み込む方向と見られる。

注目すべき点は、労働安全衛生の対象が、従来型の機械災害、化学物質、騒音、転倒、墜落、はさまれ・巻き込まれだけにとどまらなくなっていることである。

今後は、次のようなテーマをOH&Sマネジメントシステムの中で扱うことが、より明確に求められる可能性がある。

  • 心理社会的リスク
  • メンタルヘルス
  • ウェルビーイング
  • 気候変動による労働安全衛生リスク
  • リモートワークとハイブリッドワーク
  • AI、ロボット、自動化、デジタル監視技術
  • サプライチェーンと外部委託
  • 多様な働く人への配慮
  • 安全文化とリーダーシップ

つまり、ISO45001改訂は、単なる規格文言の更新ではなく、労働安全衛生を「現場の事故防止」から「働く人の安全・健康・組織の持続可能性を支える経営システム」へ広げる動きとして捉える必要がある。


3. 改訂の背景|6つの主要ドライバー

3-1. メンタルヘルスと心理社会的リスク

最も重要な改訂背景の一つが、メンタルヘルス及び心理社会的リスクへの国際的な関心の高まりである。

現行ISO45001でも、心理社会的要因はOH&Sリスクの範囲に含めて考えることができる。しかし実務上は、ISO45001を運用している企業でも、機械災害や物理的リスクに比べて、メンタルヘルス、過重労働、ハラスメント、孤立、心理的安全性、職場内コミュニケーションの問題を、リスクアセスメントに十分反映できていないケースがある。

次期ISO45001では、心理社会的リスクとウェルビーイングが、より明確に扱われる可能性が高い。

日本企業にとっても、この動きは重要である。ストレスチェック、長時間労働対策、ハラスメント防止、産業保健体制、休職・復職支援などは、これまで人事・総務部門の施策として扱われることが多かった。

しかし、ISO45001の観点では、これらをOH&Sマネジメントシステムの中で、危険源の特定、リスク評価、目標、運用管理、モニタリング、内部監査、マネジメントレビューへ接続することが重要になる。

補足コラム|心理社会的リスクとは何か

心理社会的リスクとは、職場の組織、業務設計、人間関係、労働時間、役割、コミュニケーションなどに起因し、働く人のメンタルヘルスや身体的健康に影響を与える可能性のあるリスクをいう。

例としては、次のようなものがある。

  • 過度な業務負荷
  • 長時間労働
  • 役割や責任の曖昧さ
  • ハラスメント
  • 暴力・暴言
  • 孤立
  • 上司・同僚からの支援不足
  • 裁量の不足
  • 仕事と生活の境界の曖昧化
  • 変化への不安
  • 不公正な評価や処遇

心理社会的リスクは、単なる「個人のストレス耐性」の問題ではない。職場設計、組織文化、管理職の行動、コミュニケーションの仕組みに関わるOH&Sリスクとして扱う必要がある。

3-2. 多様性・包摂、D&I

D&I、すなわち多様性と包摂も、改訂で重視される可能性があるテーマである。

従来の安全衛生対策は、平均的な作業者を前提に設計されがちだった。しかし実際の職場には、高年齢労働者、女性、障害のある人、外国人労働者、妊娠中・育児中・介護中の働く人、非正規雇用者、派遣労働者、請負・協力会社の作業者など、多様な人が存在する。

同じ作業でも、身体特性、言語理解、文化的背景、健康状態、経験年数、勤務形態によって、リスクの現れ方は異なる。

例えば、次のような観点が必要になる。

  • 外国人労働者に安全表示や教育内容が伝わっているか
  • 高年齢労働者にとって重量物作業や夜勤が過度な負担になっていないか
  • 妊娠中の働く人、障害のある人、持病のある人に必要な配慮があるか
  • 派遣・請負労働者がヒヤリハットや危険源を報告できるか
  • 非正規雇用者や短時間勤務者にも必要な教育が届いているか
  • 多様な働く人が安全衛生活動に参加できる仕組みがあるか

今後のISO45001では、リスクアセスメント、教育訓練、協議及び参加、緊急時対応、作業環境改善において、多様な働く人のニーズを考慮する視点がより重要になると考えられる。

3-3. 気候変動リスク

気候変動は、環境マネジメントだけのテーマではない。労働安全衛生にも直接影響する。

具体的には、次のようなOH&Sリスクが考えられる。

  • 熱中症リスクの増大
  • 豪雨、台風、洪水、暴風雪時の通勤・屋外作業リスク
  • 災害時の避難、安否確認、緊急時対応
  • 気候変動に伴う感染症や媒介生物の変化
  • サプライチェーン混乱による突発作業、長時間労働、非定常作業の増加
  • 気候対策として導入した新設備・新材料に伴う新たな安全リスク

日本企業にとって特に重要なのは、熱中症対策と自然災害時の安全確保である。

従来、熱中症対策は季節的な安全衛生活動として扱われることが多かった。しかし今後は、気候関連OH&Sリスクとして、リスクアセスメント、運用管理、緊急時対応、教育、目標設定に組み込む視点が重要になる。

3-4. リモートワーク・ハイブリッドワーク

COVID-19以降、在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイルワーク、ハイブリッドワークは多くの国で定着した。

これにより、従来の「事業場内の安全衛生管理」だけではカバーしにくい課題が顕在化している。

主な論点は次のとおりである。

  • 在宅勤務時の机、椅子、照明、VDT作業環境
  • 勤務時間の境界の曖昧化
  • 長時間労働
  • 孤立、コミュニケーション不足
  • メンタルヘルス不調
  • 管理者による安全衛生状況の把握の難しさ
  • 緊急時連絡体制
  • 労働災害該当性の判断
  • 情報通信機器への依存による身体的・心理的負担

次期ISO45001では、OH&Sリスクを事業場内に限定せず、組織が管理又は影響を及ぼせる働き方全体として捉える視点が強まる可能性がある。

3-5. AI・デジタル化・新技術

AI、ロボット、自動化、デジタル監視技術、ウェアラブル端末などの普及は、OH&S管理に新たな可能性とリスクの両方をもたらしている。

例えば、ロボットや自動化設備は危険作業を減らす一方で、人と機械の協働、非常停止、保全作業、予期しない動作など新しいリスクを生む可能性がある。

AIやデジタル監視技術は、労働災害の予兆把握や教育に役立つ一方、働く人の心理的負担、監視されている感覚、データの扱い、公平性などの課題も生じる。

次期ISO45001では、新技術導入時の変更管理、リスク評価、働く人への説明、教育、協議及び参加がより重要になると考えられる。

3-6. Annex SL/Harmonized Structureとの整合

ISO9001、ISO14001、ISO45001、ISO27001など複数のマネジメントシステム規格を統合運用している企業にとって、規格間の整合性は実務上の重要課題である。

ISO45001改訂においても、Annex SL又はHarmonized Structureとの整合は重要な検討テーマになると考えられる。

特に、次の領域は他規格との共通管理がしやすい。

  • 組織の状況
  • 利害関係者のニーズ及び期待
  • リーダーシップ
  • リスク及び機会
  • 変更管理
  • 外部提供者・外部委託
  • 内部監査
  • マネジメントレビュー
  • 改善

企業は、ISO45001単独で文書を改訂するのではなく、品質、環境、情報セキュリティ、事業継続、エネルギー管理などとの統合運用も視野に入れるべきである。


4. 国際的な検討状況|2024〜2026年

4-1. 2024年:改訂作業の本格化

ISO45001改訂は、ISO/TC283のもとで進められている。2024年には、ISO45001改訂に関する作業が本格化し、2018年版発行後の正式な見直しが具体的に進み始めた。

同時期には、ISO/TC283内で関連するテーマも並行して検討されている。小規模組織向けのOH&S、気候変動とOH&Sリスク、リモートワーク、OH&Sパフォーマンス評価などは、ISO45001本体の改訂と密接に関係する。

これは、ISO45001の改訂が単独の文言修正ではなく、ISO/TC283全体として現代的な労働安全衛生課題を体系化しようとしていることを示している。

4-2. 2025年:CD段階

2025年には、ISO/CD 45001が公表され、各国の標準化機関や専門家からコメントが収集された。

CD段階で注目された主なテーマは、次のとおりである。

  • メンタルヘルス
  • 心理社会的リスク
  • ウェルビーイング
  • リモートワーク
  • ハイブリッドワーク
  • D&I
  • 気候変動リスク
  • AI、デジタル化、新技術
  • サプライチェーン、外部委託、請負業者
  • 安全文化、リーダーシップ、組織文化
  • 中小企業でも適用しやすい表現

ただし、CD段階の内容は最終要求事項ではない。この段階の情報は、「国際的にどのテーマが重視されているか」を把握する材料として使うべきであり、「この要求事項が必ず入る」と断定してはならない。

4-3. 2026年:DIS段階

2026年6月時点では、ISO/DIS 45001が国際照会段階にある。

DIS段階に到達したことは、規格案の構造と主要な方向性がかなり固まりつつあることを意味する。一方で、DIS後にもコメント対応、修正、FDIS又は最終発行に向けた調整が残されている。

したがって、現時点での適切な表現は、「2027年発行が見込まれる」「改訂の方向性が見えつつある」「最終要求事項は未確定である」である。

「ISO45001:2027では必ずこうなる」と断定する表現は避けるべきである。


5. 海外審査・認証機関の動向

海外の主要認証機関・審査機関の公開情報を見ると、共通して次のような傾向が見られる。

5-1. 全面的な構造変更より、既存要求事項の強化・明確化

多くの情報では、次期ISO45001は全面的な構造変更ではなく、現行ISO45001:2018の枠組みを活かしながら、現代の労働環境に合わせて要求事項を明確化する改訂になる可能性が高いと説明されている。

これは、企業にとって重要な示唆である。現行システムを捨てて作り直す必要があるというより、既存の仕組みを点検し、新しいテーマを実務に組み込むことが現実的な対応になる。

5-2. 重点テーマはほぼ共通している

海外の認証機関・審査機関の公開情報で共通して挙げられるテーマは、次のとおりである。

  • 心理社会的リスク
  • メンタルヘルス
  • ウェルビーイング
  • 気候関連リスク
  • リモートワーク、ハイブリッドワーク
  • サプライチェーン、外部委託
  • リーダーシップと説明責任
  • 働く人の協議及び参加
  • 安全文化
  • D&I
  • AI、デジタル化、新技術
  • パフォーマンス評価と有効性

これらは、正式な要求事項としての表現は未確定であっても、国際的に注目度が高い論点である。

5-3. 早期のギャップ確認が推奨されている

多くの認証機関は、正式発行を待つのではなく、現行ISO45001の仕組みを使って早期にギャップ確認を進めるべきだと助言している。

ただし、ここでいう早期対応とは、未確定の草案に合わせて文書を全面改訂することではない。

早期対応として有効なのは、次のような活動である。

  • 改訂テーマ別の現状確認
  • 内部監査テーマへの追加
  • マネジメントレビューでの報告
  • 安全衛生目標への反映
  • 教育・周知
  • 変更管理への追加
  • 外部委託先管理の見直し
  • メンタルヘルス・気候変動・リモートワークのリスク評価

6. 地域別動向比較|欧州・北米・アジア

6-1. 欧州

欧州では、労働安全衛生とサステナビリティ、人権、D&I、心理社会的リスクを結びつけて捉える傾向が強い。

EUでは、サステナビリティ報告、サプライチェーン・デューデリジェンス、化学物質規制、気候変動対応などが企業経営に深く入り込んでいる。そのため、ISO45001改訂についても、単なる労災防止規格ではなく、ESG、人的資本、労働人権、サプライチェーン監査と接続するものとして理解されやすい。

欧州企業にとって、ISO45001改訂は安全衛生部門だけの課題ではなく、サステナビリティ、法務、人事、調達、経営企画と連動するテーマである。

6-2. 北米

北米では、安全文化、組織行動、ヒューマンファクター、リーダーシップの議論が進んでいる。

ISO45001改訂においても、心理社会的ハザード、ウェルビーイング、技術革新、サプライチェーン安全、リーダーシップが重要テーマとして扱われている。

北米では、形式的な安全衛生管理よりも、実効性、組織文化、管理職の関与、働く人の声を重視する傾向がある。ISO45001改訂も、この流れと整合して理解されている。

6-3. アジア

アジアでは、製造業、建設業、物流、化学物質管理、気候変動影響、外国人労働者、サプライチェーン管理が重要テーマとなる。

一方で、国や地域によって法令制度、労働環境、労働者構成、中小企業の安全衛生体制に大きな差がある。

そのため、次期ISO45001では、小規模組織や資源の限られた組織でも適用しやすい実務的な表現が重要になると考えられる。

地域別の関心テーマ比較

日本企業にとっては、国内事業場だけでなく、海外拠点、海外サプライヤー、現地請負業者を含めたOH&S管理の整合性が課題になる。


7. 改訂ポイントの詳細

以下は、2026年6月時点の公開情報及び国際的な議論動向に基づく整理である。最終要求事項は未確定であるため、断定ではなく「想定される改訂ポイント」として読む必要がある。

7-1. リスクアセスメントの対象範囲の拡張

現行ISO45001でも、危険源の特定とOH&Sリスク評価は中心的な要求事項である。

今後は、このリスクアセスメントの対象範囲がより明確に広がる可能性がある。

従来の主な対象は、次のようなものだった。

  • 機械設備
  • 高所作業
  • フォークリフト
  • クレーン
  • 化学物質
  • 騒音
  • 重量物
  • 転倒
  • 墜落
  • はさまれ・巻き込まれ
  • 火災・爆発

これに加え、次のような領域をより体系的に含める必要がある。

  • メンタルヘルス
  • 心理社会的リスク
  • ハラスメント
  • 過重労働
  • 孤立
  • リモートワーク
  • ハイブリッドワーク
  • 気候変動による熱中症・自然災害リスク
  • AI、ロボット、自動化
  • 外部委託、請負、サプライチェーン
  • 多様な働く人のニーズ
  • 非定常作業
  • 変更時のリスク

重要なのは、リスクアセスメント表の様式を増やすことではない。既存の危険源特定プロセスに、これらの新しい視点が組み込まれているかを確認することである。

リスクアセスメント対象領域の拡張

7-2. メンタルヘルス要求事項の明確化

メンタルヘルスと心理社会的リスクは、改訂の中心テーマの一つになる可能性が高い。

次期ISO45001では、メンタルヘルスを福利厚生や個人の問題として扱うのではなく、業務設計、組織文化、労働時間、管理職の対応、コミュニケーション、職場内の関係性などの職場要因として体系的に捉えることが求められる方向にある。

企業が確認すべき主な論点は次のとおりである。

  • ストレスチェックの結果を職場改善につなげているか
  • 長時間労働や過重労働の兆候を把握しているか
  • ハラスメント、暴力、いじめ、孤立をOH&Sリスクとして扱っているか
  • 管理職へのメンタルヘルス教育を実施しているか
  • 働く人が相談しやすい仕組みがあるか
  • 相談後の対応プロセスが明確か
  • 休職・復職支援のプロセスが整っているか
  • 心理社会的リスクを内部監査やマネジメントレビューで扱っているか
  • 人事施策とOH&Sマネジメントシステムが接続しているか

改訂後は、メンタルヘルスに関する活動が「人事部門の取り組み」として独立しているだけでは不十分と見られる可能性がある。OH&Sマネジメントシステムとの接続が重要になる。

7-3. 気候変動リスクの組み込み

気候変動は、組織の状況、利害関係者のニーズ、リスク及び機会、運用管理、緊急事態対応、目標設定に影響する。

企業が確認すべき主な視点は次のとおりである。

  • 屋外作業、倉庫作業、物流、建設、設備保全で熱中症リスクを評価しているか
  • WBGT測定、休憩、給水、作業時間調整、教育が仕組み化されているか
  • 豪雨、台風、洪水、積雪、猛暑時の作業判断基準があるか
  • 災害時の避難、安否確認、緊急連絡体制があるか
  • 気候対策として導入した設備や材料が新たな安全リスクを生んでいないか
  • サプライチェーン混乱が突発作業や過重労働につながっていないか
  • 気候変動に関する利害関係者要求を把握しているか

日本では、夏季の熱中症対策や自然災害時の安全確保が特に重要である。年間安全衛生計画に気候関連リスクをどう組み込むかが、実務上の重要ポイントになる。

7-4. リモートワーク・ハイブリッドワークへの対応

リモートワークとハイブリッドワークは、事業場外の働き方をOH&Sマネジメントシステムでどう扱うかという課題を生む。

確認すべき主な論点は次のとおりである。

  • 在宅勤務時の作業環境を確認する仕組みがあるか
  • VDT作業、姿勢、照明、休憩に関する教育を行っているか
  • 勤務時間の管理と長時間労働防止が機能しているか
  • 孤立やコミュニケーション不足への対策があるか
  • メンタルヘルス不調の兆候を把握する仕組みがあるか
  • 緊急時連絡体制が整っているか
  • リモートワーク中の事故・けがの報告ルールがあるか
  • 管理者が遠隔勤務者の状態を把握できているか

リモートワークの安全衛生管理は、単に在宅勤務規程を作ることではない。作業環境、労働時間、コミュニケーション、メンタルヘルス、緊急時対応を含めて、OH&Sリスクとして扱うことが重要である。

7-5. 安全文化とリーダーシップの強化

安全文化は、次期ISO45001でより重視される可能性がある。

現行ISO45001でも、トップマネジメントのリーダーシップ、働く人の協議及び参加、危険源の報告、報復を恐れずに危険を伝えられる環境は重要な考え方である。

今後は、これらがより明確に「組織文化」と結びついて説明される可能性がある。

実務上の確認ポイントは次のとおりである。

  • トップマネジメントが安全衛生を経営課題として扱っているか
  • 安全衛生方針が実際の判断に反映されているか
  • 安全より生産・納期・コストが常に優先される雰囲気がないか
  • 働く人が危険源やヒヤリハットを報告しやすいか
  • 報告した人が責められない仕組みがあるか
  • 事故や不適合の原因分析が個人責任追及で終わっていないか
  • 現場の意見が改善に反映されているか
  • 管理職が安全衛生上の役割を理解しているか
  • 安全衛生活動の結果が現場へフィードバックされているか

今後は、方針や手順書の存在だけでなく、それが現場の行動や判断に実際に反映されているかが、より問われる可能性がある。

補足コラム|安全文化と安全風土の違い

安全文化とは、組織全体に根付いた安全に関する価値観、信念、判断基準、行動様式をいう。経営層の意思決定、管理職の行動、現場の報告しやすさ、失敗から学ぶ姿勢などが含まれる。

安全風土は、働く人が「この職場では安全がどう扱われているか」と感じる職場の雰囲気に近い概念である。

簡単に整理すると、次のようになる。

用語実務での意味
安全文化組織に根付いた安全に関する価値観・行動様式
安全風土働く人が感じている安全に関する職場の雰囲気

安全文化は一朝一夕には変わらない。ヒヤリハットの扱い方、管理職の声かけ、経営層の判断、改善結果のフィードバックなど、日常の積み重ねで形成される。

7-6. 外部委託・サプライチェーン管理

次期ISO45001では、外部委託先、請負業者、協力会社、サプライチェーンを含むOH&S管理がより重要になる可能性がある。

企業が確認すべき主な論点は次のとおりである。

  • 請負・協力会社の作業に伴うOH&Sリスクを把握しているか
  • 入構教育や作業前打合せが形式的になっていないか
  • 自社従業員と外部作業者の混在作業リスクを評価しているか
  • 委託先変更時にOH&Sリスクを確認しているか
  • 外部委託先の事故・ヒヤリハット情報を把握しているか
  • 緊急時の連絡体制が共有されているか
  • サプライチェーンの混乱が突発作業や過重労働につながっていないか
  • 海外拠点・海外サプライヤーにも安全衛生上の要求が伝わっているか

外部委託管理は、取引先を過度に監視することではない。自社のOH&Sパフォーマンスに影響する範囲を見極め、必要な情報共有、教育、作業調整、緊急時対応を行うことである。

7-7. 中小企業への適用容易性

ISO45001は、規模・業種を問わず適用できる規格である。しかし中小企業では、次のような課題がある。

  • 安全衛生専任者がいない
  • ISO事務局が総務・人事・品質・環境を兼務している
  • 法令確認やリスクアセスメントの専門知識が不足している
  • 記録や文書を増やしすぎると運用が続かない
  • 現場との連携が属人的になりやすい
  • 請負・派遣・外注先まで管理する余力が限られる

そのため、中小企業では、複雑な文書体系を作るよりも、次のような実務に絞ることが現実的である。

  • リスクの高い作業から優先的に見直す
  • 法令対応の抜け漏れを確認する
  • ヒヤリハットや災害事例を改善に活用する
  • 安全衛生委員会や朝礼を協議及び参加の場として使う
  • メンタルヘルスや熱中症など、身近なテーマから始める
  • 外注先・請負業者は重要度に応じて管理する
  • 既存の帳票に確認欄を追加する
  • 内部監査を実務改善の場として使う

7-8. Annex SL/Harmonized Structureとの整合

ISO45001改訂では、ISOマネジメントシステム規格間の整合性も重要になる。

多くの企業では、ISO9001、ISO14001、ISO45001を統合して運用している。そのため、次の項目は統合的に扱う方が実務的である。

  • 組織の状況
  • 利害関係者
  • リスク及び機会
  • 変更管理
  • 外部提供者・外部委託
  • 力量・認識
  • 内部コミュニケーション
  • 内部監査
  • マネジメントレビュー
  • 是正処置・改善

企業は、ISO45001単独での文書改訂よりも、品質・環境・安全衛生の共通管理項目を横断的に整理する視点を持つべきである。


8. 企業が今から準備すべきこと|2026年~

8-1. 草案対応ではなく、現行システムの実効性確認から始める

正式発行前の段階で、DISの文言に合わせて文書を大きく書き換えることは避けるべきである。

まずは、現行ISO45001の仕組みが実効的に機能しているかを確認することが最優先である。

確認すべき主な項目は次のとおりである。

確認項目着目点
危険源の特定現場実態、非定常作業、変更時、請負作業を反映しているか
リスクアセスメント点数付けで終わらず、優先順位と対策につながっているか
メンタルヘルス心理社会的リスクをOH&Sリスクとして扱っているか
気候変動熱中症、自然災害、異常気象を評価しているか
リモートワーク作業環境、労働時間、孤立、緊急時対応を確認しているか
外部委託請負・協力会社・外注先のOH&Sリスクを把握しているか
D&I多様な働く人に安全衛生情報が伝わっているか
安全文化危険源やヒヤリハットを報告しやすい雰囲気があるか
内部監査文書確認だけでなく、現場で機能しているかを見ているか
マネジメントレビュー新しいOH&Sリスクが経営層で議論されているか

8-2. 改訂テーマ別のギャップ分析を行う

2026年中に実施したいのは、改訂テーマ別の簡易ギャップ分析である。

テーマ現在の管理状況不足している点2026年中の対応案
メンタルヘルスストレスチェックは実施集団分析結果が職場改善に十分活かされていない安全衛生委員会で集団分析結果と改善策を確認
心理社会的リスクハラスメント相談窓口ありリスクアセスメントとの接続が弱い危険源一覧に心理社会的要因を追加
リモートワーク就業ルールあり作業環境チェックが不足在宅勤務チェックリストを導入
気候変動熱中症対策あり豪雨・台風時の作業基準が不明確緊急時対応手順を見直す
D&I外国人労働者が在籍多言語安全教育が不足重要作業の表示・教育資料を多言語化
外部委託入構教育あり委託先変更時の確認が弱い変更管理に委託先OH&S確認を追加
安全文化ヒヤリハット制度あり提出後のフィードバックが不足改善結果を月次共有
新技術自動化設備を導入導入前リスク評価が属人的設備変更時のOH&S確認欄を追加

8-3. 内部監査テーマに組み込む

2026〜2027年の内部監査では、次のテーマを重点的に確認するとよい。

  • 心理社会的リスクとメンタルヘルス
  • 働く人の協議及び参加の実効性
  • 請負・協力会社・外部委託先の安全衛生管理
  • 気候変動、熱中症、自然災害への対応
  • リモートワーク・ハイブリッドワークの安全衛生管理
  • 変更管理と新技術導入時のリスク評価
  • 安全文化、ヒヤリハット報告のしやすさ
  • D&Iを踏まえた教育・周知
  • マネジメントレビューへの報告状況

内部監査では、「文書があるか」だけでなく、「現場で機能しているか」「働く人が理解しているか」「改善につながっているか」を確認することが重要である。

8-4. マネジメントレビューで改訂動向を扱う

ISO45001改訂は、ISO事務局だけの課題ではない。

メンタルヘルス、気候変動、D&I、外部委託、安全文化は、経営課題そのものである。そのため、マネジメントレビューで次のような観点を扱うことが望ましい。

  • ISO45001改訂の最新状況
  • 自社のOH&Sリスクの変化
  • 労働災害、ヒヤリハット、メンタルヘルス指標の傾向
  • 気候変動や自然災害による影響
  • 働く人の声、協議及び参加の状況
  • 外部委託・協力会社の安全衛生管理
  • リモートワーク・新技術導入による影響
  • 次年度の安全衛生目標への反映
  • 必要な資源、予算、人員、教育

8-5. 段階的な教育・周知を進める

改訂対応では、対象者ごとに教育内容を分けると効果的である。

対象教育・周知テーマ
経営層ISO45001改訂の経営影響、安全文化、メンタルヘルス、気候変動、人的資本
管理職心理社会的リスク、働く人の参加、報告しやすい職場、変更管理
現場作業者危険源報告、ヒヤリハット、非定常作業、熱中症、緊急時対応
総務・人事ストレスチェック、長時間労働、ハラスメント、リモートワーク
購買・外注管理請負・協力会社、サプライチェーン、委託先変更時のOH&S確認
ISO事務局DIS情報、ギャップ分析、内部監査、移行計画
海外拠点担当現地法令、外国人労働者、サプライヤー、現地請負業者管理

教育では、「改訂されるからやる」という説明ではなく、「事故・健康障害・トラブルを防ぐために必要な視点」として伝えることが重要である。


9. 企業実務で使えるチェックリスト

9-1. 経営層向けチェックリスト

  • ISO45001改訂が2026年6月時点でDIS段階にあることを把握している
  • 2027年発行見込みを前提に、移行準備の方針を確認している
  • メンタルヘルスを人事施策だけでなくOH&S課題として扱っている
  • 気候変動、熱中症、自然災害を経営リスクとして確認している
  • 安全衛生方針が現場の意思決定に反映されている
  • 安全より納期・生産・コストが常に優先される状態を放置していない
  • 働く人が危険源やヒヤリハットを報告しやすい文化を支援している
  • 改訂対応に必要な人員、時間、予算、教育を確保している
  • マネジメントレビューで改訂動向と新しいOH&Sリスクを扱っている
  • ISO45001改訂を人的資本・サステナビリティ・事業継続と接続して捉えている

9-2. 安全衛生担当者・ISO事務局向けチェックリスト

  • 危険源一覧に心理社会的リスクが含まれている
  • メンタルヘルス、過重労働、ハラスメント、孤立をOH&Sリスクとして確認している
  • 非定常作業、保全作業、清掃、トラブル対応をリスク評価に含めている
  • 熱中症、豪雨、台風、洪水、積雪など気候関連リスクを確認している
  • リモートワークの作業環境、労働時間、メンタルヘルスを確認している
  • 外国人労働者、派遣、請負、協力会社にも安全衛生情報が伝わっている
  • 請負・協力会社の入構教育、作業前打合せ、緊急時連絡体制を確認している
  • 新設備、新技術、AI、ロボット導入時にOH&Sリスクを評価している
  • ヒヤリハット報告後のフィードバックを実施している
  • 内部監査で改訂関連テーマを扱っている
  • 改訂テーマ別のギャップ分析を実施している
  • 2027年正式発行後の移行計画を作成できる準備がある

9-3. 人事・総務部門向けチェックリスト

  • ストレスチェックの結果を職場改善に活用している
  • 長時間労働・過重労働の兆候を安全衛生担当者と共有している
  • ハラスメント相談窓口とOH&S管理が接続している
  • 休職・復職支援のプロセスが明確である
  • リモートワークの作業環境・労働時間管理を確認している
  • 管理職向けのメンタルヘルス教育を実施している
  • 外国人労働者や多様な働く人への教育・周知方法を工夫している
  • 心理社会的リスクを安全衛生委員会又は関連会議で扱っている

9-4. 現場管理者向けチェックリスト

  • 現場の危険源を定期的に確認している
  • 非定常作業のリスクを作業前に確認している
  • 作業者がヒヤリハットを報告しやすい雰囲気をつくっている
  • 報告者を責めず、改善につなげている
  • 熱中症、騒音、重量物、化学物質などの健康障害リスクを確認している
  • 新人、派遣、請負、外国人労働者に作業ルールが伝わっている
  • 作業変更、設備変更、レイアウト変更時に安全衛生担当者へ連絡している
  • 緊急時の連絡・避難・停止手順を理解している
  • 管理職自身が安全衛生上の役割を理解している

9-5. 購買・外注管理部門向けチェックリスト

  • 外注先・請負業者の作業内容とOH&Sリスクを把握している
  • 委託先変更時に安全衛生面を確認している
  • 協力会社への安全衛生要求を契約・仕様書・入構ルールに反映している
  • 外部作業者の事故・ヒヤリハット情報を把握できる
  • 新設備・新材料・新技術の導入時にOH&S担当者へ情報共有している
  • 海外サプライヤーや海外拠点の安全衛生情報を必要に応じて確認している
  • サプライチェーン混乱が突発作業や過重労働につながらないよう確認している

10. 2026〜2027年の実務ロードマップ

2026年下期

  • ISO/DIS 45001の公開情報を確認する
  • 改訂テーマ別の情報収集を行う
  • 現行ISO45001の運用状況を棚卸しする
  • メンタルヘルス、気候変動、リモートワーク、外部委託の簡易ギャップ分析を行う
  • 内部監査テーマに改訂関連テーマを追加する
  • 経営層へ改訂動向を報告する

2027年

  • DIS後の国際コメント・認証機関情報を継続確認する
  • 安全衛生目標に改訂関連テーマを反映する
  • 心理社会的リスク、気候変動、外部委託、D&Iに関する記録を整備する
  • 手順書、チェックリスト、教育資料を必要に応じて試行する
  • マネジメントレビューで改訂動向と準備状況を確認する
  • 内部監査で新テーマの運用状況を確認する

2027年後半~

  • 正式発行後、現行規格との差分を確認する
  • 認定機関・認証機関の移行ルールを確認する
  • 移行計画を作成する
  • 文書、記録、教育、内部監査、マネジメントレビューを改訂版に合わせて調整する
  • 移行審査に向けて運用記録を整備する
  • 改訂対応を単なる文書改訂で終わらせず、安全衛生パフォーマンス改善につなげる

2026〜2028年ロードマップのイメージ


11. 日本企業への示唆

ISO45001改訂が日本企業に示す最大のメッセージは、従来型の安全衛生活動を否定することではない。むしろ、従来の活動を土台にしながら、対象範囲を広げ、経営、人事、現場、外部委託先をつなぐことである。

特に中小企業では、次のような現実的なアプローチが有効である。

  • 既存の安全衛生委員会を、協議及び参加の実効的な場として見直す
  • ストレスチェックやメンタルヘルス施策をOH&Sリスク管理につなげる
  • 熱中症、台風、豪雨などを気候関連OH&Sリスクとして明示的に扱う
  • リモートワークの作業環境とメンタルヘルスを定期的に確認する
  • 外国人労働者、派遣、請負、協力会社にも伝わる安全衛生情報を整備する
  • 外注先変更、設備変更、新技術導入時にOH&Sリスクを評価する習慣をつける
  • 内部監査で「書類の有無」ではなく「現場で機能しているか」を見る
  • 経営層が安全文化と心理社会的リスクを経営課題として扱う

ISO45001改訂は、移行審査対応の負担としてではなく、自社の安全衛生活動を現代の働き方に合わせてアップデートする機会として活用すべきである。


12. 注意すべき法令・公的情報

ISO45001改訂に備える際も、日本国内では、労働安全衛生法令への適合が基本である。

特に次のような情報は、最新の公的情報を確認する必要がある。

  • 労働安全衛生法
  • 労働安全衛生規則
  • 安全衛生委員会、衛生委員会、安全委員会に関する情報
  • ストレスチェック制度
  • 長時間労働、過重労働対策
  • ハラスメント防止に関する情報
  • 化学物質管理、SDS、リスクアセスメント
  • 熱中症対策
  • 高年齢労働者の安全と健康確保
  • 外国人労働者への安全衛生教育
  • 派遣・請負・混在作業に関する安全衛生管理
  • 厚生労働省、都道府県労働局、労働基準監督署、職場のあんぜんサイト
  • 中央労働災害防止協会の実務情報
  • ISO公式、ISO/TC283、日本規格協会、JAB、認証機関の移行ガイダンス

法令の適用は、業種、事業場規模、作業内容、設備、使用物質、雇用形態によって異なる。本レポートの内容だけで適用判断を完結せず、必要に応じて公的情報、所轄労働基準監督署、専門家、認証機関に確認することが望ましい。


13. まとめ

2026年6月時点で、ISO45001改訂はDIS段階にあり、2027年の発行が見込まれている。最終要求事項はまだ確定していないが、国際的な公開情報から、次の方向性が見えつつある。

改訂方向性主な内容
メンタルヘルス強化心理社会的リスク、ウェルビーイング、ハラスメント、過重労働への対応
D&I対応多様な働く人のニーズを考慮したリスク管理
気候変動対応熱中症、自然災害、気候対策設備の新たなリスクへの対応
新しい働き方リモートワーク、ハイブリッドワーク、遠隔勤務者のOH&S管理
新技術対応AI、ロボット、自動化、デジタル技術導入時のリスク評価
サプライチェーン管理外部委託、請負、協力会社を含むOH&S管理
安全文化リーダーシップ、働く人の参加、報告しやすい職場づくり
規格整合性ISOマネジメントシステム規格間の接続性向上
適用容易性中小企業でも使いやすい実務的な運用

企業が今避けるべきことは、未確定の草案に基づいて文書を過度に書き換えることである。

一方、今から準備すべきことは明確である。

現行ISO45001の運用を見直し、これから重視されるテーマが、自社のリスクアセスメント、目標、運用管理、内部監査、マネジメントレビューに組み込まれているかを確認することである。

ISO45001改訂は、審査対応のためだけの課題ではない。働く人の安全と健康を、より広い視点で守るための機会である。

2026年中にギャップ分析と重点テーマの棚卸しを行い、2027年の正式発行後に落ち着いて移行対応できる状態を整えておくことが、最も合理的な準備の進め方である。


参照すべき主な情報源

  • ISO公式:ISO/DIS 45001、ISO45001:2018、ISO45001:2018/Amd 1:2024
  • ISO/TC283公式情報
  • 日本規格協会のISO/TC283関連情報
  • 厚生労働省、都道府県労働局、労働基準監督署
  • 職場のあんぜんサイト
  • 中央労働災害防止協会
  • IAF、JAB、認証機関の移行ガイダンス
  • BSI、DQS、Bureau Veritas、LRQAなど主要認証機関の改訂情報
  • 関連規格:ISO45003、ISO45004、ISO45006、ISO45007、ISO45008など

本レポートは、2026年6月時点の公開情報に基づき作成した。最終要求事項及び移行期限は、ISO正式発行後、認定機関・認証機関の公式ガイダンスに基づいて確認する必要がある。

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