- はじめに|箇条9は「活動が本当に機能しているか」を確認する段階
- 1. ISO45001の箇条9「パフォーマンス評価」の全体像
- 2. パフォーマンス評価とは何か|災害件数だけで判断しない理由
- 3. 監視・測定・分析・評価の違い|箇条9.1
- 4. 安全衛生で使いやすいKPIの例
- 5. 分析・評価で止まらず改善につなげる
- 6. 順守評価とは何か|箇条9.1.2
- 7. 順守評価の進め方
- 8. 内部監査とは何か|箇条9.2
- 9. 内部監査で見たいポイント|箇条6・7・8とのつながり
- 10. マネジメントレビューとは何か|箇条9.3
- 11. マネジメントレビューで扱う情報とアウトプットの例
- 12. 箇条9でよくあるつまずき
- 13. 明日から確認したい5ステップ
- 14. チェックリスト
- 15. よくある質問
- 16. 注意すべき法令・公的情報
- まとめ|箇条9は「確認して、改善につなげる」ための段階
はじめに|箇条9は「活動が本当に機能しているか」を確認する段階
本シリーズでは、ISO45001を箇条ごとに分けて、初心者の企業担当者にもわかりやすく解説しています。
第7回となる今回は、箇条9「パフォーマンス評価」を取り上げます。
これまでのシリーズでは、箇条6「計画」でリスクや目標を計画し、箇条7「支援」で教育や情報共有の体制を整え、箇条8「運用」でリスク低減策や緊急事態対応を運用する流れを見てきました。
箇条9は、その活動が計画どおりに進み、効果を出しているかを確認する段階にあたります。
「パフォーマンス評価」と聞くと、労働災害件数や休業災害件数を集計することだけをイメージする方も少なくありません。
たしかに、労働災害の発生状況を確認することは大切です。
しかし、ISO45001の箇条9で確認したいのは、それだけではありません。
箇条9では、おおむね次のようなことを確認します。
- 安全衛生活動が計画どおり実施されているか
- リスク低減策が実際に機能しているか
- 法的要求事項やその他の要求事項を守れているか
- 内部監査で仕組みの問題を見つけられているか
- 経営層が結果を確認し、次の改善につなげているか
つまり、箇条9は、安全衛生の仕組みが本当に機能しているかを確認し、次の改善につなげるための段階と考えると分かりやすくなります。
確認した結果は、シリーズ次回で扱う箇条10「改善」へとつながっていきます。
この記事では、ISO45001の箇条9について、初心者の中小企業担当者にもわかるように、監視・測定、順守評価、内部監査、マネジメントレビューの実務ポイントを整理します。
なお、法令の具体的な適用は、業種・事業場規模・作業内容によって異なります。本記事は一般的な確認の視点を示すものです。実際の判断は、厚生労働省、都道府県労働局、労働基準監督署、職場のあんぜんサイト、中央労働災害防止協会などの公的情報や専門家への確認を前提にしてください。
1. ISO45001の箇条9「パフォーマンス評価」の全体像
箇条9は、大きく次の3つのテーマに分けて考えると理解しやすくなります。
| 箇条 | テーマ | 実務で確認すること |
|---|---|---|
| 9.1 | 監視、測定、分析及びパフォーマンス評価 | 安全衛生活動の結果や有効性を確認する |
| 9.1.2 | 順守評価 | 法的要求事項・その他の要求事項を守れているか確認する |
| 9.2 | 内部監査 | ISO45001の仕組みが適切に運用されているか確認する |
| 9.3 | マネジメントレビュー | 経営層が活動結果を確認し、改善の方向を決める |
順守評価は、箇条9.1の中で特に重要な確認事項として位置づけられています。
初心者の担当者は、まず次のように整理するとイメージがつかみやすくなります。
- 日常的に見るもの:災害件数、ヒヤリハット、職場巡視、点検、教育、健康診断、測定結果など
- 定期的に確認するもの:法令順守状況、目標の進捗、内部監査、マネジメントレビューなど
- 改善につなげるもの:不適合、是正処置、リスクアセスメントの見直し、安全衛生目標の見直しなど
箇条9は「データを集めること」自体が目的ではありません。
集めた情報を見て、うまくいっている活動、効果が出ていない活動、新しく出てきた問題、経営層が判断すべき課題を見極めることが大切です。
箇条9は「確認する箇条」であり、同時に「改善の入口」でもあるという点を意識しておくと、実務での進め方がぶれにくくなります。
2. パフォーマンス評価とは何か|災害件数だけで判断しない理由
ISO45001におけるパフォーマンス評価とは、労働安全衛生マネジメントシステムの活動や結果を確認し、期待した効果が出ているかを判断する取り組みです。
初心者向けに言えば、次のように考えると分かりやすくなります。
パフォーマンス評価とは、安全衛生活動が本当に役に立っているかを確認することです。
例えば、次のような確認が該当します。
- ヒヤリハット報告は増えているか
- 報告されたヒヤリハットが改善につながっているか
- リスクアセスメントで決めた対策が実施されているか
- 安全衛生目標の進捗はどうか
- 労働災害や休業災害は減っているか
- 職場巡視で同じ指摘が繰り返されていないか
- 教育を受けた人が現場でルールを守れているか
- 化学物質の保管、表示、保護具使用が適切か
- 健康診断やストレスチェックの結果から課題が見えていないか
- 請負業者や協力会社に関する安全衛生管理が機能しているか
ここで注意したいのは、「結果」だけを見ないことです。
労働災害が起きていないからといって、必ずしも安全衛生活動が十分とは限りません。
たまたま災害が起きていないだけで、現場には重大な危険源が残っていることもあります。
そのため、ISO45001のパフォーマンス評価では、災害件数のような結果だけでなく、活動の実施状況やリスク低減策の有効性も合わせて確認することが実務上のポイントになります。
これは、箇条6で計画したリスクアセスメントや目標、箇条8で運用したリスク低減策が、現場で本当に機能しているかを振り返る作業ともいえます。
3. 監視・測定・分析・評価の違い|箇条9.1
箇条9.1では、監視、測定、分析及びパフォーマンス評価を扱います。
「監視」と「測定」は似ていますが、実務では次のように整理すると分かりやすくなります。
| 用語 | 実務での意味 | 例 |
| 監視 | 状態や実施状況を継続的に確認すること | 職場巡視、点検、進捗確認、ヒヤリハット集計 |
| 測定 | 数値や結果として把握すること | 騒音測定、作業環境測定、温湿度、WBGT、労災件数 |
| 分析 | 集めた情報から傾向や原因を読み取ること | 災害傾向分析、部署別集計、再発要因の整理 |
| 評価 | 期待どおりか、改善が必要か判断すること | 目標達成状況、対策の有効性、順守状況の判断 |
例えば、ヒヤリハット報告を集めるだけでは「監視」に近い活動です。
部署別、作業別、危険源別に傾向を整理すると「分析」になります。
その結果、「フォークリフトと歩行者の接触リスクが高いので、歩車分離を重点対策にする」と判断すれば、「評価」と改善につながります。
この4段階を意識すると、自社の取り組みがどこで止まっているかが見えやすくなります。
4. 安全衛生で使いやすいKPIの例
パフォーマンス評価では、何を指標として見るかが重要です。
安全衛生の指標というと、労働災害件数だけを見がちです。
しかし、中小企業のISO45001運用では、結果指標と活動指標を組み合わせると実務に使いやすくなります。
4-1. 結果指標
結果指標とは、活動の結果として表れる数値です。
| 指標 | 内容 |
| 労働災害件数 | 災害の発生件数 |
| 休業災害件数 | 休業を伴う災害の件数 |
| 不休災害件数 | 休業に至らない災害の件数 |
| 災害型別件数 | 転倒、はさまれ・巻き込まれ、切れ・こすれなどの分類 |
| 健康診断有所見率 | 健康診断で所見があった割合 |
| ストレスチェック結果 | 高ストレス者割合や組織分析結果 |
| 熱中症発生件数 | 暑熱期の体調不良や熱中症発生状況 |
| 化学物質ばく露に関する異常 | 体調不良、測定結果、保護具不備など |
結果指標は分かりやすい一方で、問題が起きてから見える指標です。
そのため、結果指標だけではなく、次のような活動指標も見ることが重要です。
4-2. 活動指標
活動指標とは、災害を防ぐための活動が実施されているかを見る指標です。
| 指標 | 内容 |
| 職場巡視の実施率 | 計画どおり巡視できているか |
| 指摘事項の是正完了率 | 巡視や監査で出た指摘が改善されたか |
| ヒヤリハット報告件数 | 現場から危険情報が出ているか |
| 改善提案件数 | 働く人から改善提案が出ているか |
| リスクアセスメント実施率 | 対象作業で評価が実施されているか |
| 高リスク対策の完了率 | 重点リスクへの対策が進んでいるか |
| 安全衛生教育の受講率 | 必要な教育が実施されているか |
| 保護具着用確認率 | ルールが現場で守られているか |
| 法定点検・自主点検の実施率 | 設備点検などが期限内に実施されているか |
| 安全衛生委員会の決定事項フォロー率 | 決定事項が放置されていないか |
活動指標を見ることで、「災害が起きる前に」弱いところを見つけやすくなります。
例えば、ヒヤリハット報告が極端に少ない場合、本当に危険がないのではなく、報告しにくい雰囲気がある可能性があります。
職場巡視の指摘が毎月同じ場合は、是正処置が不十分か、現場にルールが定着していない可能性があります。
KPIは多ければよいわけではありません。
自社の重点リスクや安全衛生目標に合わせて、実際に管理できる指標を選ぶことが大切です。
5. 分析・評価で止まらず改善につなげる
箇条9でよくあるつまずきは、データを集めて表にするだけで終わってしまうことです。
重要なのは、次の流れを作ることです。
情報を集める
→ 傾向を見る
→ 原因を考える
→ 必要な対応を決める
→ 実施する
→ 効果を確認する
例えば、転倒災害が多い場合、件数だけを見るのではなく、次のように分析します。
- どの部署で多いか
- どの時間帯に多いか
- 床の濡れ、段差、整理整頓、照度不足が関係していないか
- 高年齢労働者や新人に偏りがないか
- 靴、通路、作業手順、清掃ルールに問題がないか
- 過去の対策が続いているか
そのうえで、必要な対策を決めます。
- 通路の段差を解消する
- 床濡れ箇所を見える化する
- 清掃ルールを見直す
- 滑りにくい靴を導入する
- 高年齢労働者に配慮した作業改善を行う
- 職場巡視で重点確認する
このように、データを改善に結びつけることが箇条9の実務上のポイントです。
そして、その改善活動が次回解説する箇条10「改善」へとつながっていきます。
6. 順守評価とは何か|箇条9.1.2
箇条9.1.2では、順守評価を行います。
順守評価とは、自社に適用される法的要求事項及びその他の要求事項を守れているかを確認する活動です。
初心者向けに言えば、次のように考えると分かりやすくなります。
順守評価とは、守るべき安全衛生ルールを本当に守れているか定期的に確認することです。
「守るべきルール」には、おおむね次のようなものがあります。
法的要求事項の例
- 作業主任者、安全管理者、衛生管理者、産業医などの選任
- 安全委員会、衛生委員会、安全衛生委員会の運営
- 雇入れ時教育、特別教育、職長教育などの教育
- 定期健康診断、特殊健康診断、ストレスチェック
- 作業環境測定
- 化学物質のリスクアセスメント
- SDSの確認
- 機械設備の定期自主検査
- クレーン、フォークリフト、玉掛けなどの資格・教育
- 有機溶剤、特定化学物質、粉じん、石綿、酸素欠乏などに関する管理
- 長時間労働、過重労働、メンタルヘルスに関する対応
その他の要求事項の例
その他の要求事項とは、法令ではないものの、自社が守る必要があると判断した要求事項です。
例としては、次のようなものがあります。
- 顧客や元請会社の安全衛生ルール
- グループ会社の安全基準
- 労使協定
- 社内規程
- 工場入場ルール
- 請負業者との安全協定
- 業界団体のガイドライン
- 認証機関や顧客監査での指摘事項
- 取引先から求められる安全衛生基準
実際に適用される内容は、業種、事業場規模、作業内容、設備、化学物質、労働者数などによって異なります。
そのため、記事や一般情報だけで判断せず、厚生労働省、都道府県労働局、労働基準監督署、職場のあんぜんサイト、中央労働災害防止協会などの公的情報を必ず確認することが大切です。
7. 順守評価の進め方
順守評価は、法令一覧を作るだけでは不十分です。
大切なのは、一覧にした要求事項について、実際に守れているかを確認することです。
実務では、次の流れで進めると分かりやすくなります。
ステップ1:適用される要求事項を整理する
まず、自社に関係する法令やその他の要求事項を整理します。
| 項目 | 記載例 |
| 法令・要求事項 | 労働安全衛生法、労働安全衛生規則 |
| 適用理由 | フォークリフトを使用している |
| 要求内容 | 運転者の資格、点検、作業計画、教育など |
| 担当部署 | 製造部、総務部、安全衛生担当 |
| 記録 | 資格証、点検記録、教育記録 |
ステップ2:守れているか確認する
次に、実際の記録や現場を確認します。
- 必要な選任がされているか
- 必要な教育が実施されているか
- 点検が期限どおり行われているか
- 健康診断や特殊健康診断が実施されているか
- 作業環境測定の結果を確認しているか
- 化学物質のSDSやリスクアセスメントが更新されているか
- 委員会の議事録や決定事項が残っているか
- 是正が必要な事項に対応しているか
ステップ3:結果を記録する
順守評価の結果は、記録として残しておくと説明しやすくなります。
| 確認項目 | 評価結果 | 確認記録 | 対応 |
| フォークリフト運転者の資格 | 適合 | 資格証一覧 | 新入社員配属時に再確認 |
| 定期自主検査 | 一部要改善 | 点検記録 | 未記入箇所の是正 |
| 安全衛生委員会 | 適合 | 議事録 | 決定事項のフォロー強化 |
| 化学物質SDS | 一部要改善 | SDS一覧 | 古いSDSを最新版に更新 |
| 特別教育 | 適合 | 教育記録 | 年度末に再確認 |
ステップ4:不備があれば是正する
順守評価で不備が見つかった場合は、放置せずに是正します。
例えば、次のような対応です。
- 未実施の教育を実施する
- 古いSDSを最新版に更新する
- 点検記録の未記入を是正する
- 選任状況を見直す
- 届出や報告の必要性を確認する
- 委員会の議事録様式を改善する
- 現場手順を見直す
順守評価は、違反を探して責めるための活動ではありません。
法令対応漏れや実務上の抜けを早めに見つけ、事故や審査指摘を防ぐための活動と捉えると、社内でも前向きに取り組みやすくなります。
8. 内部監査とは何か|箇条9.2
箇条9.2では、内部監査を行います。
内部監査とは、自社の労働安全衛生マネジメントシステムが、ISO45001の要求事項や自社で決めた取り決めに合っており、実際に運用されているかを確認する活動です。
初心者向けに言えば、次のように考えると分かりやすくなります。
内部監査とは、自社の安全衛生の仕組みが正しく動いているかを社内で確認することです。
内部監査では、単に書類があるかどうかを見るだけではありません。
次のような点を確認します。
- 決めた手順が現場で実施されているか
- リスクアセスメントの結果が対策につながっているか
- 安全衛生目標が進捗管理されているか
- 教育や力量管理が実務に合っているか
- 請負業者や外部作業者の管理ができているか
- 緊急事態対応の訓練や備品管理ができているか
- 順守評価が行われているか
- 過去の不適合や指摘への是正が有効か
- 働く人の協議及び参加が機能しているか
- マネジメントレビューに必要な情報が上がっているか
内部監査は、審査前の「粗探し」ではありません。
職場をより安全にするため、仕組みの弱いところを見つける活動です。
9. 内部監査で見たいポイント|箇条6・7・8とのつながり
ISO45001の内部監査では、箇条ごとに書類を確認するだけでなく、現場での運用を見ることが重要です。
| つながる箇条 | 確認したい視点 |
| 箇条6「計画」 | 危険源が現場実態を反映して特定されているか、非定常作業も対象になっているか、リスク評価が対策につながっているか |
| 箇条7「支援」 | 必要な教育が実施され、作業者がルールを理解しているか、安全衛生情報が現場に伝わっているか |
| 箇条8「運用」 | 作業手順が実際の作業と合っているか、保護具が適切に使用されているか、設備・工程変更時の確認ができているか |
| 箇条9・10 | 監視・測定の結果を分析しているか、順守評価が実施されているか、内部監査の指摘が是正され改善につながっているか |
内部監査では、「書類上はできているが、現場では守られていない」という状態を見つけることが重要です。
現場観察、担当者へのインタビュー、記録確認を組み合わせて確認しましょう。
内部監査の記録例
| 項目 | 記載例 |
| 監査日 | 2026年○月○日 |
| 監査部署 | 製造部 |
| 監査範囲 | 製造工程、設備点検、リスクアセスメント、教育記録 |
| 監査基準 | ISO45001、自社安全衛生規程、法的要求事項 |
| 良い点 | ヒヤリハット報告が改善提案につながっていた |
| 指摘事項 | 点検表の一部に確認者記入漏れあり |
| 改善提案 | 非定常作業の手順を写真付きにする |
| 是正結果 | 点検表様式を改訂し、担当者教育を実施 |
| 有効性確認 | 翌月の巡視で記入漏れなしを確認 |
単に「適合」「不適合」と書くだけでなく、確認した事実、改善すべき点、対応期限を明確にすると実務で使いやすくなります。
10. マネジメントレビューとは何か|箇条9.3
箇条9.3では、マネジメントレビューを行います。
マネジメントレビューとは、トップマネジメントが労働安全衛生マネジメントシステムの状況を確認し、今後の改善や資源配分について判断する場です。
初心者向けに言えば、次のように考えると分かりやすくなります。
マネジメントレビューとは、経営層が安全衛生活動の結果を確認し、次に何を改善するかを決める会議です。
ここで大切なのは、単なる報告会にしないことです。
安全衛生担当者が資料を読み上げるだけで、経営層が判断しない会議では、マネジメントレビューの意味が弱くなります。
マネジメントレビューでは、例えば次のようなことを経営層が確認します。
- 安全衛生方針は今の会社に合っているか
- 安全衛生目標は達成できているか
- 労働災害やヒヤリハットの傾向に問題はないか
- 高リスク作業への対策は進んでいるか
- 法令対応に漏れはないか
- 内部監査の結果に重大な問題はないか
- 働く人の意見や参加は十分か
- 必要な人員、予算、設備、教育は足りているか
- 次年度の重点課題は何か
マネジメントレビューは、ISO事務局のための会議ではありません。
安全衛生を経営課題として扱い、次の改善につなげるための重要な場です。
11. マネジメントレビューで扱う情報とアウトプットの例
マネジメントレビューでは、次のような情報を準備すると整理しやすくなります。
| テーマ | 確認する情報 |
| 前回レビューのフォロー | 前回決定事項の実施状況 |
| 組織の変化 | 人員、設備、工程、拠点、請負業者、事業内容の変化 |
| 労働災害・ヒヤリハット | 件数、傾向、原因、再発防止策 |
| 安全衛生目標 | 進捗、達成状況、未達成理由 |
| リスクアセスメント | 高リスク、対策状況、残留リスク |
| 法的要求事項 | 順守評価結果、法令改正、届出、教育、点検 |
| 内部監査 | 指摘事項、良い点、是正処置、有効性確認 |
| 働く人の協議及び参加 | 提案、委員会、職場巡視、フィードバック |
| 教育・力量 | 教育実績、未受講者、必要な力量 |
| 請負業者管理 | 入場教育、混在作業、事故・ヒヤリハット |
| 緊急事態対応 | 訓練結果、備品、連絡体制、課題 |
| 資源 | 人員、予算、設備、保護具、外部支援 |
| 改善の機会 | 次年度の重点課題、設備投資、教育改善 |
マネジメントレビューでは、確認して終わりではなく、次のアクションを決めることが大切です。
アウトプットの例は次のとおりです。
| 判断事項 | 例 |
| 改善事項 | フォークリフト動線の見直し、転倒防止対策の強化 |
| 目標の見直し | 次年度は化学物質管理を重点目標にする |
| 資源の必要性 | 安全カバー改善の予算を確保する |
| 教育の見直し | 新入社員向け教育に非定常作業の内容を追加する |
| 方針の見直し | メンタルヘルスや高年齢労働者への配慮を追加検討する |
| リスク評価の見直し | 新設備導入に伴いリスクアセスメントを再実施する |
| 内部監査の改善 | 現場観察を増やし、請負業者管理を重点監査にする |
| 順守評価の改善 | 法令一覧の更新頻度と担当を明確にする |
中小企業では、分厚い資料を作る必要はありません。
重要なのは、経営層が判断すべき情報が分かりやすく整理されていることです。
マネジメントレビュー記録の例
| 項目 | 内容 |
| 開催日 | 2026年○月○日 |
| 出席者 | 社長、工場長、安全衛生担当、ISO事務局、現場責任者 |
| 報告内容 | 災害件数、ヒヤリハット、目標進捗、内部監査、順守評価 |
| 主な課題 | 転倒リスク、化学物質SDS更新、ヒヤリハット報告件数の低下 |
| 決定事項 | 転倒防止を次年度重点目標にする |
| 必要な資源 | 通路改善費用、滑り止めマット購入、教育時間の確保 |
| 担当者 | 製造部長、安全衛生担当 |
| 期限 | 2026年○月末 |
| 次回確認 | 四半期会議で進捗確認 |
12. 箇条9でよくあるつまずき
| つまずきの例 | 対応の視点 |
| 災害件数だけを見ている | ヒヤリハット、職場巡視、教育、点検なども組み合わせて確認する |
| データを集めるだけで分析していない | 部署別、作業別、原因別に整理し重点を判断する |
| 順守評価が法令一覧の更新だけになっている | 教育、点検、選任、健康診断などの実施状況まで確認する |
| 内部監査が書類確認だけになっている | 現場観察、インタビューで運用実態を確認する |
| マネジメントレビューが形式的な報告会になっている | 課題、リスク、必要な資源、重点テーマを議論する |
| 箇条10「改善」につながっていない | 指摘、不備、目標未達、災害傾向を是正処置や改善計画に展開する |
これらは、ISO45001の運用に取り組む中小企業で特によく見られる傾向です。
一つでも当てはまる場合は、次章のチェックリストを使って自社の状況を振り返ってみてください。
13. 明日から確認したい5ステップ
中小企業では、箇条9を次の5ステップで整理すると運用しやすくなります。
ステップ1:何を確認するか決める
労働災害、ヒヤリハット、職場巡視、リスクアセスメント、教育、点検、順守評価、内部監査など、自社の重点リスクに合った項目を選びます。
ステップ2:確認頻度と担当を決める
誰が、いつ確認するかを決めます。
| 項目 | 頻度の例 | 担当の例 |
| ヒヤリハット集計 | 毎月 | 安全衛生担当 |
| 職場巡視 | 毎月 | 現場管理者・安全衛生担当 |
| 目標進捗 | 四半期ごと | ISO事務局 |
| 順守評価 | 年1回など定期的に、または必要時 | 総務・安全衛生担当 |
| 内部監査 | 年1回など定期的に、または必要時 | 内部監査員 |
| マネジメントレビュー | 年1回など定期的に、または必要時 | トップマネジメント |
頻度は、会社のリスクや活動状況に応じて決めます。
高リスク作業や法令に関係する項目は、必要に応じて頻度を高めます。
ステップ3:結果を記録する
確認した結果は、後から見直せるように記録します。
- 災害報告書
- ヒヤリハット集計表
- 職場巡視記録
- 点検記録
- 教育記録
- リスクアセスメント表
- 順守評価記録
- 内部監査報告書
- マネジメントレビュー議事録
- 是正処置記録
記録は、審査のためだけではなく、改善のための材料です。
ステップ4:傾向と原因を見る
記録を集めたら、次のような視点で確認します。
- 同じ部署で同じ問題が続いていないか
- 高リスク対策が遅れていないか
- 教育後もルール違反が起きていないか
- 点検で同じ異常が繰り返されていないか
- 法令対応に期限切れや漏れがないか
- 内部監査の指摘が再発していないか
ここで改善すべき課題を見つけます。
ステップ5:改善につなげる
最後に、必要な対応を決めます。
- 手順を見直す
- 教育を追加する
- 設備改善を行う
- 保護具を見直す
- リスクアセスメントを再実施する
- 法令一覧を更新する
- 点検頻度を見直す
- 目標を見直す
- 経営層へ資源確保を提案する
箇条9は確認して終わりではありません。
確認結果を改善につなげることで、ISO45001のPDCAが回ります。
14. チェックリスト
監視・測定
- 安全衛生パフォーマンスを確認する指標を決めているか
- 労働災害件数だけでなく活動指標も見ているか
- ヒヤリハット、職場巡視、点検、教育の結果を確認しているか
- リスクアセスメントで決めた対策の実施状況を確認しているか
- 作業環境測定、健康診断、ストレスチェックなど必要な情報を確認しているか
- 結果を分析し、傾向や原因を見ているか
- 分析結果を改善活動や目標見直しにつなげているか
順守評価
- 自社に適用される法的要求事項・その他の要求事項を整理しているか
- 適用理由を説明できるか
- 選任、教育、点検、測定、健康診断、記録の実施状況を確認しているか
- 法令改正情報を確認する方法があるか
- 順守評価の結果を記録しているか
- 不備があった場合に是正しているか
- 最新情報を厚生労働省、労働局、労働基準監督署などで確認しているか
内部監査
- 内部監査計画を作成しているか
- 監査範囲、監査基準、監査員を決めているか
- 書類だけでなく現場の運用を確認しているか
- リスクアセスメント、運用管理、教育、順守評価を確認しているか
- 働く人へのインタビューを行っているか
- 指摘事項の是正処置を確認しているか
- 是正後の有効性を確認しているか
マネジメントレビュー
- トップマネジメントが関与しているか
- 安全衛生目標の進捗を報告しているか
- 労働災害、ヒヤリハット、職場巡視、内部監査、順守評価の結果を報告しているか
- 働く人の協議及び参加の状況を確認しているか
- 必要な資源について議論しているか
- 次年度の重点課題や改善事項を決めているか
- 決定事項、担当者、期限を記録しているか
15. よくある質問
Q1. ISO45001の箇条9では、具体的に何をすればよいですか?
箇条9では、安全衛生活動が計画どおり実施され、効果を出しているかを確認します。
具体的には、監視・測定、分析、パフォーマンス評価、順守評価、内部監査、マネジメントレビューを行います。
災害件数だけでなく、ヒヤリハット、職場巡視、教育、点検、リスク対策の進捗なども確認すると実務に役立ちます。
Q2. パフォーマンス評価は労働災害件数を見るだけでよいですか?
労働災害件数は重要ですが、それだけでは不十分と考えられます。
災害が起きていなくても、重大なリスクが残っている場合があります。
そのため、ヒヤリハット、職場巡視、リスクアセスメント、順守評価などの活動指標も合わせて確認することが大切です。
Q3. 順守評価と内部監査はどう違いますか?
順守評価は、法令・その他の要求事項を守れているかを確認する活動です。
内部監査は、ISO45001の仕組みと自社ルールが現場で機能しているかを確認する活動です。
内部監査の中で、順守評価が適切に行われているかを確認することもあります。
Q4. マネジメントレビューは年1回実施すれば十分ですか?
年1回実施している企業は多いですが、回数だけで十分かどうかは判断できません。
重要なのは、トップマネジメントが結果を確認し、必要な判断を行っていることです。
重大災害、法令改正、大きな組織変更、新設備導入などがあった場合は、必要に応じて追加で確認することも考えられます。
Q5. 中小企業では、どこまで記録を残せばよいですか?
立派な様式を作ることが目的ではありません。
何を確認し、どのような結果で、どのような対応を決めたかが分かる記録を残すことが大切です。
既存の安全衛生委員会議事録、職場巡視記録、点検表、教育記録、内部監査報告書、マネジメントレビュー議事録を活用すると、無理なく運用できます。
Q6. 内部監査員は専門知識がないとできませんか?
専門知識は必要ですが、すべてを一人で完璧に理解している必要はありません。
重要なのは、ISO45001の要求事項、自社のルール、現場のリスクを理解し、事実に基づいて確認できることです。
必要に応じて、安全衛生担当者、現場管理者、外部専門家と連携しながら進めるとよいでしょう。
Q7. ヒヤリハット件数が少ない場合は、良い状態と考えてよいですか?
必ずしもそうとは限りません。
本当に危険が少ない場合もありますが、報告しにくい雰囲気がある、報告様式が使いにくい、報告しても改善されないと思われている、という可能性もあります。
件数だけで判断せず、現場の声、職場巡視、内部監査、改善提案の状況と合わせて確認することが大切です。
16. 注意すべき法令・公的情報
ISO45001の箇条9に関連して、次のような情報は最新の公的情報を確認してください。
- 労働安全衛生法
- 労働安全衛生規則
- 安全委員会、衛生委員会、安全衛生委員会の設置・運営
- 安全管理者、衛生管理者、産業医などの選任
- 雇入れ時教育、特別教育、職長教育
- 健康診断、特殊健康診断
- ストレスチェック制度
- 化学物質のリスクアセスメント、SDS、表示・通知
- 作業環境測定
- 機械設備の定期自主検査
- フォークリフト、クレーン、玉掛けなどの資格・教育
- 有機溶剤、特定化学物質、粉じん、石綿、酸素欠乏などの特別規則
- 長時間労働、過重労働、メンタルヘルス対策
- 熱中症対策に関する厚生労働省情報
- 厚生労働省、都道府県労働局、労働基準監督署、職場のあんぜんサイト、中央労働災害防止協会などの情報
法令の適用は、業種、事業場規模、設備、作業内容、取扱物質、労働者数によって異なります。
記事内では一般的な確認ポイントを示していますが、実際の適用判断は必ず最新の公的情報や専門家の助言を確認してください。
まとめ|箇条9は「確認して、改善につなげる」ための段階
ISO45001の箇条9「パフォーマンス評価」は、安全衛生活動が本当に機能しているかを確認するための重要な段階です。
ポイントは次の4つです。
- 監視・測定
労働災害、ヒヤリハット、職場巡視、教育、点検、リスク対策の進捗などを確認する。 - 順守評価
法的要求事項及びその他の要求事項を実際に守れているか確認する。 - 内部監査
ISO45001の仕組みと自社ルールが現場で機能しているか確認する。 - マネジメントレビュー
経営層が結果を確認し、次の改善や資源配分を判断する。
大切なのは、記録を集めることだけで終わらせず、集めた情報を分析し、問題点を見つけ、改善につなげることです。
労働災害件数だけを見るのではなく、ヒヤリハット、職場巡視、リスクアセスメント、順守評価、内部監査の結果を組み合わせて確認すると、安全衛生活動の実態が見えやすくなります。
まずは、自社で現在使っている安全衛生委員会資料、職場巡視記録、ヒヤリハット報告、教育記録、内部監査報告書を見直してみてください。
そこには、箇条9で確認すべき情報の多くがすでに含まれているはずです。
ISO45001のパフォーマンス評価は、新しい書類を増やすことではありません。
今ある安全衛生活動の結果を整理し、次の改善に使える形にすることです。
次回、第8回は、箇条10「改善」について、不適合・是正処置・継続的改善の実務ポイントを解説します。
本記事は一般的な実務上の確認ポイントを整理したものです。法的要求事項の適用範囲は、業種・事業場規模・作業内容によって異なります。実際の判断にあたっては、厚生労働省、都道府県労働局、労働基準監督署などの最新の公的情報、または専門家への確認をおすすめします。


コメント