- はじめに|箇条6「計画」はISO45001実務の中心にある
- ISO45001の箇条6「計画」の全体像
- 危険源とは何か
- 危険源の特定で確認したい視点
- 危険源とリスクの違いを整理しよう
- リスクアセスメントの基本的な流れ
- 管理策は「危険源の除去」から優先的に考える
- 労働安全衛生機会とは何か
- 法的要求事項及びその他の要求事項とは
- 法的要求事項を管理する実務ポイント
- 労働安全衛生目標とは何か
- 目標達成計画で確認すること
- 箇条6で確認しておきたい記録・資料
- 初任担当者が箇条6でつまずきやすいポイント
- 危険源の特定
- リスクアセスメント
- 機会
- 法的要求事項及びその他の要求事項
- 労働安全衛生目標
- Q1. 危険源とリスクはどう違いますか?
- Q2. リスクアセスメントはどこまで細かく行う必要がありますか?
- Q3. 労働安全衛生機会とは何ですか?
- Q4. 法的要求事項は誰が確認すればよいですか?
- Q5. 労働安全衛生目標は「労災ゼロ」だけでもよいですか?
- Q6. 箇条6では審査でどのような点を確認されますか?
- Q7. 化学物質のリスクアセスメントは、ISO45001でも確認が必要ですか?
はじめに|箇条6「計画」はISO45001実務の中心にある
ISO45001を担当し始めたばかりの方から、「箇条6がいちばんよくわからない」「リスクアセスメントをどう整理すればよいかわからない」という声をよく聞きます。
箇条6「計画」は、ISO45001の要求事項のなかでも特に実務と結びつきの強い箇条です。ここには、労働安全衛生活動の土台となる次のテーマが含まれています。
- 危険源の特定
- 労働安全衛生リスク及び機会の評価
- 法的要求事項及びその他の要求事項の把握
- 労働安全衛生目標の設定
- 目標を達成するための計画
これらは、ISO審査のために書類を整えるだけの作業ではありません。
自社の職場にどのような危険源があり、どのリスクを優先して対策し、どの法令や要求事項を守るべきで、今年度何を重点的に改善するかを決めるための実務上の活動です。
難しく考えすぎる必要はありません。箇条6は、次のように整理すると実務に落とし込みやすくなります。
自社の危険源と法的要求事項を確認し、必要な対策と目標につなげるための要求事項
この記事では、ISO45001の初任担当者に向けて、箇条6を順を追ってわかりやすく解説します。
ISO45001の箇条6「計画」の全体像
ISO45001の箇条6は、大きく見ると次の2つに分けて考えると理解しやすくなります。
- リスク及び機会への取組みを計画する
- 労働安全衛生目標と、それを達成するための計画を立てる
実務上は、次のようなテーマとして整理できます。
| テーマ | 実務で考えること |
|---|---|
| 危険源の特定 | どの作業・設備・物質・環境に危険性又は有害性があるか |
| リスクの評価 | その危険源によって、どの程度のけがや健康障害が起こり得るか |
| 機会の評価 | 安全衛生をより良くする改善の可能性は何か |
| 法的要求事項 | 守るべき労働安全衛生法令、届出、選任、教育、点検、記録は何か |
| その他の要求事項 | 顧客、元請、グループ会社、社内規程などの要求は何か |
| 目標の設定 | 重点的に改善する安全衛生テーマは何か |
| 達成計画 | 誰が、いつまでに、何を行い、どう評価するか |
箇条6は単独で動くものではありません。
第2回で解説した箇条4「組織の状況」で整理した自社の課題、第3回で解説した箇条5のトップマネジメントの方針や働く人の参加という土台を受けて、具体的な計画に落とし込む箇条です。
そして、この計画は箇条7「支援」、箇条8「運用」、箇条9「パフォーマンス評価」、箇条10「改善」へとつながっていきます。
まずは、次の流れを押さえておくとよいでしょう。
何が危ないかを確認する
→ どのくらい危ないかを評価する
→ どう対策するかを決める
→ 何を重点目標にするかを決める
→ 実施計画として動かす
この流れ全体を扱うのが、箇条6「計画」です。
危険源とは何か
ISO45001でいう危険源とは、負傷や健康障害を引き起こす可能性のある作業、設備、物質、環境、状態などのことです。
日本の労働安全衛生実務では、「危険性又は有害性」という表現で説明されることもあります。
初任担当者向けに言えば、次のように考えるとわかりやすいです。
危険源とは、けがや健康障害につながる可能性のあるもの・状態・作業のこと
「危険源」と聞くと、工場や建設現場の機械設備をイメージしやすいかもしれません。しかし、実際には事務所、倉庫、介護施設、飲食店、物流センター、研究所、清掃現場など、あらゆる職場に危険源は存在します。
危険源の例
| 分類 | 具体例 |
|---|---|
| 機械・設備 | 回転体、刃物、プレス機、コンベヤ、フォークリフト、クレーン |
| 作業方法 | 高所作業、重量物の取扱い、狭所作業、手作業での切断、清掃作業 |
| 化学物質 | 有機溶剤、洗浄剤、粉じん、酸・アルカリ、塗料、接着剤 |
| 作業環境 | 暑熱、寒冷、騒音、照度不足、換気不足、床の濡れ、段差 |
| 人の行動 | 無理な姿勢、手順の省略、急いだ作業、不安全行動、確認不足 |
| 健康面 | 長時間労働、夜勤、ストレス、メンタルヘルス不調、腰痛 |
| 外部要因 | 請負業者との混在作業、来訪者、交通事故、自然災害、感染症 |
注意したいのは、すぐにけがとして現れない危険源も重要だという点です。
化学物質へのばく露、騒音、暑熱、長時間労働、メンタルヘルスの問題は、短時間では見えにくくても、健康障害につながる可能性があります。
目に見えやすい「転倒」「はさまれ」「切れ」だけでなく、健康面や心理社会的な要因も含めて確認することが大切です。
危険源の特定で確認したい視点
危険源の特定は、机上で一覧表を作るだけでは不十分です。実際の作業を見ることで、はじめて気づく危険源が数多くあります。
特に、初任担当者は「通常作業」だけでなく、「いつもと違う作業」に注意する必要があります。
確認すべき場面
見落とされやすいのが、非定常作業です。
通常の作業では対策が整っていても、次のような場面では危険が高まることがあります。
- 設備の清掃
- 詰まり除去
- メンテナンス
- 点検、修理
- 立ち上げ時、停止時の作業
- 段取り替えやライン変更
- 緊急時、トラブル対応
- 請負業者との混在作業
- 新人、未経験者、派遣労働者が作業するとき
- 新しい設備、材料、工程を導入したとき
- 夜勤や少人数作業
重大な労働災害は、通常作業よりも、こうした非定常作業で発生することがあります。
「いつもと違う」「手順が曖昧」「担当者が限られている」「急いで対応している」といった場面は、特に注意して確認しましょう。
活用できる情報源
危険源を特定するうえで、次のような情報が参考になります。
- 職場巡視の記録
- ヒヤリハット報告
- 労働災害・事故報告
- 作業手順書
- 設備の取扱説明書
- 化学物質のSDS
- 安全衛生委員会での意見
- 働く人からの改善提案
- 健康診断やストレスチェックの集計結果
- 法令や公的機関の災害事例
- メーカーや外部専門家からの情報
ここで重要になるのが、第3回で解説した「働く人の協議及び参加」です。
実際に作業している人の声を聞くことで、事務局や管理者の目線だけでは見えにくい危険源が見つかることがあります。
危険源の特定は、担当者だけで完結させるものではありません。現場の人たちと一緒に進めることが大切です。
危険源とリスクの違いを整理しよう
ISO45001の初任担当者がよく混乱するのが、「危険源」と「リスク」の違いです。
シンプルに整理すると、次のように考えるとわかりやすくなります。
危険源=何が危ないか
リスク=どのくらい危ないか
たとえば、フォークリフトは危険源のひとつです。
しかし、フォークリフトがあるだけでは、リスクの大きさはわかりません。
人の通路とフォークリフトの動線が交差している、速度制限が守られていない、見通しの悪い交差点がある、誘導者がいない、といった状況が重なると、接触事故による重傷災害について、リスクが高いと判断できます。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| 危険源 | フォークリフト |
| 起こり得る災害 | 接触、転倒、はさまれ、荷崩れ |
| けがのひどさ(災害の重篤度) | 接触の場合:人との動線が交差し、接触した結果、重傷になる(骨折する、など) |
| 発生(接触する)可能性 | 物理的なガードがないため、フォークリフトと人と接触する可能性が高い |
| リスク評価 | 重大なリスク |
| 対策 | 歩車分離、速度制限、誘導者の配置、ミラー設置、教育 |
危険源を洗い出すだけでは十分ではありません。
その危険源がどの程度のリスクをもたらすかを評価し、優先順位をつけて対策することが、ISO45001における計画の重要なポイントです。
リスクアセスメントの基本的な流れ
「リスクアセスメント」と聞くと、複雑な数式や細かい点数付けをイメージする方もいるかもしれません。
しかし、リスクアセスメントの本来の目的は、点数をつけることではありません。危険源を特定し、リスクを見積もり、優先度を決め、必要なリスク低減措置につなげることです。
実務では、次の流れで整理するとわかりやすくなります。
- 作業や工程を洗い出す
- 危険源を特定する
- 起こり得るけがや健康障害を考える
- リスクの大きさを評価する
- 優先順位をつけて対策を決める
- 管理策を実施する
- 対策後の残留リスクを確認する
- 必要に応じて見直す
リスク評価の視点
リスクを評価するうえで、一般的に次のような視点が使われます。
- けがや健康障害の重大性
- その危険源がもつエネルギーや危険有害性(重量、回転数、温度、圧力、電力、化学的な危険有害性など)
- 発生可能性
- ばく露頻度
- 危険源に接する人数
- 現在の管理策がどの程度有効か
- 過去の災害やヒヤリハットの実績
例えば、同じ「接触」の可能性がある作業でも、軽い台車と重量物を積んだフォークリフトでは、災害の重篤度が大きく異なります。
評価方法は、数値で点数化する方法や、重大性と可能性を組み合わせてA・B・Cのようにランク付けする方法など、組織によってさまざまです。
どの方法が絶対に優れているというものではありません。
大切なのは、同じ基準で継続的に評価でき、対策の優先順位を説明できることです。
なお、「法令や社内基準との関係」をリスク評価の点数に直接入れる方法を目にしますが、法令の要求事項や社内基準はけがの重篤度や発生可能性そのものを直接変えるものではありません。そのため、本記事ではリスクの大きさを評価する要素とは分けて考えます。
法的要求事項や社内基準は、リスクの大きさそのものを見積もる要素というより、対策を検討する際に必ず押さえるべき条件として整理すると分かりやすくなります。
リスク評価では、けがや健康障害の重篤度、発生可能性、ばく露頻度、既存の管理策の有効性などを確認します。そのうえで、対策を検討する段階では、法的要求事項や社内基準で求められる教育、点検、測定、健康診断、記録、届出、作業手順などが確実に実施されるようにします。
さらに、それだけでリスクが十分に低減できているかを確認し、必要に応じて危険源の除去、代替、工学的対策、管理的対策、保護具などの追加対策を検討します。
管理策は「危険源の除去」から優先的に考える
リスク評価の結果をもとに、リスク低減のための管理策を決めていきます。このとき重要なのが、管理策の優先順位です。
安全衛生対策でよくあるのが、「とりあえず保護具を着けさせる」という対応です。もちろん保護具は重要ですが、最初から保護具だけに頼ると、根本的な改善につながりにくくなります。
ISO45001では、できるかぎり危険源そのものをなくす、またはリスクを根本から下げる考え方が重要です。
管理策の優先順位
| 優先順位 | 考え方 | 例 |
|---|---|---|
| 1 | 危険源をなくす | 危険な作業を廃止する、手作業をなくす |
| 2 | 危険性の低いものに置き換える | 有害性の低い薬品に変更する |
| 3 | 工学的対策を行う | カバー、インターロック、局所排気装置、自動化 |
| 4 | 管理的対策を行う | 作業手順、教育、作業時間管理、立入制限 |
| 5 | 保護具を使用する | 手袋、保護メガネ、防毒マスク、安全帯 |
化学物質作業の例
化学物質を扱う作業であれば、次のように考えます。
- その薬品を使用しない工程に変更できないか
- 有害性の低い薬品に切り替えられないか
- 局所排気装置や密閉化でばく露を減らせないか
- 使用量、作業時間、保管方法を管理できないか
- 最後の手段として、適切な保護具を選定しているか
保護具は大切ですが、最後の砦です。
危険源の除去やリスク低減を検討せずに保護具だけに頼ると、保護具の着用漏れや選定ミスによってリスクが残ることがあります。
労働安全衛生機会とは何か
箇条6では、リスクだけでなく「機会」も扱います。
「機会」という言葉は耳慣れないかもしれませんが、実務ではシンプルに次のように考えるとよいでしょう。
労働安全衛生機会=安全衛生をより良くする改善の可能性
リスクが「悪い結果を防ぐ視点」であるのに対し、機会は「より良い状態にする視点」です。
機会の例
- 古い設備を安全性の高い設備に更新する
- 重量物作業に補助具やリフトを導入して身体的負担を減らす
- ヒヤリハット報告をスマートフォンで手軽に出せる仕組みにする
- 有害な化学物質をより安全なものに切り替える
- 外国人労働者向けに多言語の安全表示を整備する
- メンタルヘルス不調の早期相談体制を整える
- 安全教育を動画化して、繰り返し学べるようにする
- 職場巡視に現場メンバーを参加させる
- 暑熱対策として休憩場所や作業時間を見直す
- 高年齢労働者に配慮した作業改善を行う
機会を積極的に検討することは、安全衛生パフォーマンスの継続的な改善につながります。
働く人からの改善提案、職場巡視の気づき、ヒヤリハット、設備更新のタイミングなどを、労働安全衛生機会として活かしていくことが大切です。
法的要求事項及びその他の要求事項とは
箇条6では、自社に適用される法的要求事項及びその他の要求事項を把握し、管理することも重要な要素です。
法的要求事項とは
法的要求事項とは、労働安全衛生に関して法令上守る必要がある事項です。
労働安全衛生に関する法的要求事項を確認するときは、まず関係する法令を把握し、そのうえで自社に必要な選任、教育、点検、測定、健康診断、届出、記録などの具体的な対応を整理します。
<主な法令の例>
- 労働安全衛生法
- 労働安全衛生規則
- 有機溶剤中毒予防規則
- 特定化学物質障害予防規則
- 粉じん障害防止規則
- 石綿障害予防規則
- クレーン等安全規則
- 高気圧作業安全衛生規則
- 電離放射線障害防止規則
<主な法的要求事項の例>
- 作業主任者の選任
- 安全管理者・衛生管理者・産業医などの選任
- 安全衛生教育、特別教育
- 健康診断、特殊健康診断
- ストレスチェック
- 化学物質のリスクアセスメント
- 設備の定期自主検査
- 届出、記録、掲示、表示
ただし、実際に適用される法令や法的要求事項は、業種、事業場規模、作業内容、使用設備、取り扱う化学物質によって異なります。
記事内で個別の適用判断を断定するのではなく、最新情報は厚生労働省、都道府県労働局、労働基準監督署、職場のあんぜんサイト、中央労働災害防止協会などの公的情報を確認することが大切です。
その他の要求事項とは
その他の要求事項とは、法令ではないものの、自社が守ると決めた、または守る必要があると判断した要求事項です。
例としては、次のようなものがあります。
- 顧客や元請会社からの安全衛生要求
- グループ会社の安全衛生基準
- 業界団体のガイドライン
- 労使協定
- 社内規程
- 取引先との契約条件
- 工場入場ルール
- 請負業者との安全協定
- 顧客監査で求められる安全衛生基準
その他の要求事項は見落とされがちです。
特に、建設、製造、物流、化学品取扱い、請負業務がある会社では、元請や顧客の安全ルールが実務に大きく影響することがあります。
自社だけの基準に限らず、取引関係全体を視野に入れて確認しましょう。
法的要求事項を管理する実務ポイント
法的要求事項は、一覧表を作って終わりにしてはいけません。
一覧表があっても、実際に現場で点検、教育、選任、測定、健康診断、記録管理が行われていなければ意味がありません。
大切なのは、法的要求事項を「実際の管理に落とし込む」ことです。
確認する項目の例
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象法令 | どの法令・規則が自社に関係するか |
| 適用理由 | どの作業・設備・物質・人数により適用されるか |
| 要求内容 | 選任、教育、点検、測定、健康診断、表示、記録など |
| 担当者 | 誰が管理するか |
| 実施頻度 | いつ、どの頻度で実施するか |
| 記録 | どの記録を残すか |
| 確認方法 | 順守状況をどう確認するか |
| 改正確認 | 法令改正情報をどう把握するか |
化学物質管理では特に注意する
近年は、化学物質管理に関する法令対応への関心が高まっています。
洗浄剤、溶剤、塗料、接着剤、インキ、油、添加剤などを使用している場合は、SDSを確認し、危険性・有害性、保管方法、使用時の注意、廃棄方法、漏えい時対応などを把握することが重要です。
化学物質のリスクアセスメントでは、爆発・引火などの危険性だけでなく、健康障害につながる有害性も確認します。
環境担当、購買担当、安全衛生担当、現場責任者が連携し、使用する化学物質が変わったときには、法令該当性やリスクアセスメントの見直しを行う仕組みを整えておくとよいでしょう。
労働安全衛生目標とは何か
箇条6では、リスクや法的要求事項を踏まえたうえで、労働安全衛生目標を設定します。
労働安全衛生目標とは、自社が重点的に改善したい安全衛生上のテーマを、具体的な形にしたものです。
実務では、次のように考えるとわかりやすいです。
労働安全衛生目標とは、方針・リスク・法的要求事項を踏まえて、今年度重点的に改善すること
「労働災害ゼロ」という目標をよく見かけます。
もちろん、労働災害ゼロは大切な方向性です。しかし、それだけでは具体的に何をすればよいかが見えにくくなります。
「ゼロ」という結果目標に加えて、そのために何を実施するのかという活動目標を設定すると、実務で動かしやすくなります。
目標の例
| 重点課題 | 目標例 |
|---|---|
| はさまれ・巻き込まれリスクが高い | 重点設備10台の安全カバー点検と改善を年度内に完了する |
| ヒヤリハット報告が少ない | 月10件以上のヒヤリハット報告を集め、改善につなげる |
| 化学物質管理が不十分 | 対象物質のSDS確認とリスクアセスメントを年度内に完了する |
| 腰痛が多発している | 重量物作業への補助具導入と作業手順見直しを実施する |
| 熱中症リスクがある | 暑熱期前にWBGT測定、休憩ルールの整備、教育を実施する |
| 安全教育が属人的になっている | 新入社員・派遣労働者向け教育資料を標準化する |
| 非定常作業の災害リスクが高い | 清掃・点検・段取り替え作業の手順見直しを完了する |
目標は、箇条4で整理した組織の状況、箇条5の方針、箇条6のリスクアセスメントや法的要求事項とつながっていることが大切です。
「なぜその目標を設定したのか」を説明できる状態にしておきましょう。
目標達成計画で確認すること
目標を設定したら、それを実現するための計画が必要です。
目標だけを掲げても、担当者や期限が曖昧なままでは活動が進みません。
計画に含めたい項目
- 何を実施するか
- 誰が担当するか
- いつまでに実施するか
- 必要な資源は何か
- 進捗をどのように確認するか
- どの記録を残すか
- 結果をどの場で評価するか
- 未達成の場合にどのように見直すか
計画表の例
| 目標 | 実施事項 | 担当 | 期限 | 評価方法 |
|---|---|---|---|---|
| 重点設備の巻き込まれリスク低減 | 安全カバー点検、改善リスト作成、対策実施 | 製造課長 | 9月末 | 改善完了件数、残留リスク確認 |
| 化学物質リスクアセスメントの実施 | SDS収集、対象物質一覧作成、評価、教育 | 安全衛生担当 | 12月末 | 評価完了率、教育実施記録 |
| ヒヤリハット活動の活性化 | 報告様式見直し、月次集計、改善事例共有 | ISO事務局 | 通年 | 報告件数、改善件数、現場フィードバック |
目標は多く設定すればよいわけではありません。
自社の重点リスクや課題に合わせて、実行できる数に絞る方が、実際に動く計画になります。
箇条6で確認しておきたい記録・資料
箇条6に関連して、次のような記録・資料を整理しておくと、実務でも審査でも説明しやすくなります。
| テーマ | 記録・資料の例 |
|---|---|
| 危険源の特定 | 危険源一覧、職場巡視記録、ヒヤリハット報告、災害報告 |
| リスク評価 | リスクアセスメント表、評価基準、残留リスク記録 |
| 機会 | 改善提案、設備改善計画、働く人の意見 |
| 法的要求事項 | 法令一覧、適用判断表、点検記録、教育記録、届出控え |
| その他の要求事項 | 顧客要求事項、元請のルール、社内規程、契約条件 |
| 目標・計画 | 労働安全衛生目標、実施計画、進捗管理表 |
| 年間活動 | 年間安全衛生計画、安全衛生委員会資料 |
重要なのは、書類の量ではありません。
危険源 → リスク評価 → 対策 → 目標 → 計画
この流れがつながっていることです。
なぜその危険源を選び、なぜその目標を設定したのかを、担当者自身が説明できる状態を目指してください。
初任担当者が箇条6でつまずきやすいポイント
つまずき1|危険源とリスクを混同する
危険源は「何が危ないか」、リスクは「どのくらい危ないか」です。
この違いを整理すると、リスクアセスメント表がわかりやすくなります。
つまずき2|通常作業だけを見てしまう
通常作業だけでなく、非定常作業、清掃、点検、修理、トラブル対応、請負業者作業も確認しましょう。
重大な災害は、いつもと違う作業で発生することがあります。
つまずき3|リスク評価が点数付けで終わる
リスク評価は、点数をつけることが目的ではありません。
優先順位を決め、必要な対策につなげることが目的です。
つまずき4|法的要求事項一覧を作って終わる
法令一覧があっても、現場で点検、教育、選任、測定、健康診断、記録管理が実施されていなければ意味がありません。
法的要求事項は、実際の管理に落とし込むことが重要です。
つまずき5|目標が抽象的すぎる
「労災ゼロ」「安全意識向上」だけでは、何をするのかが見えにくくなります。
重点リスクに対して、具体的な実施事項、担当、期限、評価方法を決めましょう。
つまずき6|働く人の意見が入っていない
危険源の特定やリスク評価を事務局だけで行うと、現場の実態とずれることがあります。
実際に作業する人の意見を聞くことが重要です。
チェックリスト
危険源の特定
- 自社の作業、設備、化学物質、作業環境を洗い出しているか
- 通常作業だけでなく、非定常作業も確認しているか
- 清掃、点検、修理、段取り替え、トラブル対応を確認しているか
- 請負業者や派遣労働者が関わる作業を確認しているか
- 過去の労働災害やヒヤリハットを反映しているか
- 働く人の意見を取り入れているか
- 健康障害や心理社会的要因も確認しているか
リスクアセスメント
- 危険源ごとに起こり得るけがや健康障害を整理しているか
- 重大性、発生可能性、ばく露頻度などを踏まえて評価しているか
- 評価基準が明確になっているか
- 高リスクのものから優先的に対策しているか
- 対策後の残留リスクを確認しているか
- リスク低減策が保護具だけに偏っていないか
- 管理策の実施後に見直しを行っているか
機会
- 安全衛生を改善する機会を検討しているか
- 設備、作業、教育、仕組みなど幅広く改善を考えているか
- 働く人からの改善提案を活用しているか
- ヒヤリハットや職場巡視の結果を改善につなげているか
- 設備更新や工程変更を安全衛生改善の機会として見ているか
法的要求事項及びその他の要求事項
- 自社に適用される労働安全衛生法令を把握しているか
- 適用理由(業種、規模、作業、設備、物質)を説明できるか
- 選任、教育、点検、測定、健康診断、届出、記録を管理しているか
- 法令改正情報を確認する方法があるか
- 顧客、元請、グループ会社などの要求事項を整理しているか
- 最新情報を厚生労働省、労働局、労働基準監督署などで確認しているか
- 化学物質のSDSやリスクアセスメントの対象を確認しているか
労働安全衛生目標
- 方針、リスクアセスメント、法的要求事項とつながった目標になっているか
- 具体的な実施事項が決まっているか
- 担当者と期限が明確か
- 必要な資源(予算、人員、設備)を確認しているか
- 進捗を確認する方法があるか
- 結果をマネジメントレビューなどの場で評価しているか
- 「労災ゼロ」だけでなく、具体的な活動目標があるか
よくある質問
Q1. 危険源とリスクはどう違いますか?
危険源は、けがや健康障害につながる可能性のある作業、設備、物質、環境、状態のことです。
リスクは、その危険源によってどの程度のけがや健康障害が起こり得るかを評価したものです。
簡単に言えば、「何が危ないか」が危険源、「どのくらい危ないか」がリスクです。
Q2. リスクアセスメントはどこまで細かく行う必要がありますか?
すべての作業を細かくしすぎると、書類が膨大になり運用が続かなくなることがあります。
重要なのは、重大な災害や健康障害につながる危険源を見落とさず、優先順位をつけて対策できることです。
通常作業だけでなく、非定常作業、保全作業、清掃、請負業者との混在作業なども確認するようにしてください。
Q3. 労働安全衛生機会とは何ですか?
安全衛生をより良くする改善の可能性のことです。
設備の安全性向上、重量物作業の負担軽減、ヒヤリハット報告の活性化、化学物質の代替、教育方法の改善などが代表的な例です。
リスクが「悪い結果を防ぐ視点」なら、機会は「より良い状態にする視点」と考えるとわかりやすくなります。
Q4. 法的要求事項は誰が確認すればよいですか?
安全衛生担当者やISO事務局が中心になることが多いですが、現場管理者、総務、人事、設備担当、購買担当などとの連携も必要です。
法令の適用は、業種、事業場規模、作業内容、設備、化学物質によって異なります。
最新情報は、厚生労働省、都道府県労働局、労働基準監督署、職場のあんぜんサイト、中央労働災害防止協会などの公的情報で確認してください。
Q5. 労働安全衛生目標は「労災ゼロ」だけでもよいですか?
「労災ゼロ」は大切な方向性ですが、それだけでは具体的に何をするのかが見えにくくなります。
たとえば、次のような目標にすると実務で動かしやすくなります。
- 重点設備の安全カバー点検を完了する
- 化学物質リスクアセスメントを実施する
- ヒヤリハット報告を月10件集めて改善につなげる
- 非定常作業の手順を見直す
実施事項、担当、期限、評価方法がわかる目標にすることが大切です。
Q6. 箇条6では審査でどのような点を確認されますか?
一般的には、危険源が適切に特定されているか、リスク評価が対策につながっているか、法的要求事項が把握されているか、目標が方針やリスクとつながっているかなどを確認されることがあります。
ただし、確認の観点は業種、規模、リスクの状況、審査機関によって異なります。
形式を整えるだけでなく、自社の実態に合った計画になっているかを自分の言葉で説明できる状態にしておくことが重要です。
Q7. 化学物質のリスクアセスメントは、ISO45001でも確認が必要ですか?
化学物質を取り扱う場合は、ISO45001のリスクアセスメントだけでなく、日本の労働安全衛生法令上の要求にも関係する可能性があります。
SDSの確認、対象物質の把握、危険性・有害性の確認、ばく露防止、保護具、保管、廃棄、緊急時対応などを確認しましょう。
実際の適用判断は、使用する物質、使用量、作業内容などによって異なるため、最新の公的情報を確認することが重要です。
まとめ
ISO45001の箇条6「計画」は、労働安全衛生マネジメントシステムのなかで実務との結びつきが特に強い箇条です。
この箇条で行うことを整理すると、次のようになります。
- 自社の作業や職場にある危険源を特定する
- 労働安全衛生リスクを評価し、優先順位をつけて対策を決める
- 安全衛生をより良くする機会を考える
- 法的要求事項及びその他の要求事項を把握し、現場の管理に落とし込む
- 労働安全衛生目標を設定し、達成するための計画を立てる
初任担当者は、難しいリスク理論の習得よりも、まず「自社の危険源と法的要求事項を確認し、必要な対策と目標につなげること」を意識して進めてみてください。
危険源の特定やリスクアセスメントは、担当者一人で完結させるものではありません。
働く人の声、現場管理者の経験、過去の災害、公的情報を活用しながら、自社の実態に合った計画を作ることが大切です。箇条5で確認した「働く人の参加」は、ここで本当の意味を持ちます。
一歩ずつ確認を進めていけば、箇条6は必ず整理できます。焦らず、現場の実態から始めてみましょう。
箇条6「計画」では、危険源、リスク、機会、法的要求事項、労働安全衛生目標という計画の土台を整理しました。
しかし、計画を実行するためには、それを支える仕組みと人が必要です。
次回は、箇条7「支援」を取り上げます。
安全衛生活動を動かすには、担当者や働く人の力量をどう確保するか、働く人にどう認識してもらうか、どのようにコミュニケーションを取るか、そして手順書や記録などの文書化した情報をどう管理するかが重要になります。
「人と仕組みをどう整えるか」という視点で、箇条7をわかりやすく解説します。


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