はじめに|ISO45001担当になったが、何から始めればよいのか
ISO45001の担当者を任されたとき、最初に規格の要求事項を読んでも、「結局、何から始めればよいのだろう」と感じる方は少なくありません。
要求事項には聞き慣れない用語が並び、どの箇条から理解すればよいのかもわかりにくい。審査では何を見られるのか、自社の安全衛生活動とどのように結びつければよいのか、不安を抱えたまま実務を始めている担当者の方もいるのではないでしょうか。
この記事では、そうした方に向けて、ISO45001要求事項の全体像をできるだけわかりやすく整理します。
最初にお伝えしておきたいのは、ISO45001は要求事項を一つひとつ暗記することから始める必要はない、ということです。まずは「どのような仕組みをつくろうとしている規格なのか」という大きな流れをつかむことが、担当者としての第一歩になります。
この記事は、ISO45001を初めて担当する方向けの全10回シリーズの第1回です。今回は、細かな要求事項の解説に入る前に、箇条4〜10の全体像と、担当者が最初に確認すべきポイントを整理します。
ISO45001は「安全衛生活動を仕組みとして整える規格」
ISO45001は、労働安全衛生マネジメントシステムに関する国際規格です。2018年に発行され、多くの国や組織で活用されています。
この規格の重要な目的は、働く人の負傷や健康障害を防ぎ、より安全で健康的な職場をつくることにあります。認証を取得することや、審査に対応することだけが目的ではありません。
多くの企業では、すでに次のような安全衛生活動を行っているはずです。
- 安全衛生委員会の運営
- 職場巡視
- ヒヤリハット活動
- リスクアセスメント
- 安全教育・訓練
- 作業手順書の整備
- 労働災害の再発防止
- 健康診断やメンタルヘルス対策
ISO45001が求めているのは、こうした活動をばらばらに実施するのではなく、方針を立て、計画し、実行し、確認し、改善するという一連の流れの中に位置づけることです。
すでに安全衛生活動に取り組んでいる企業にとって、ISO45001は「新しいことを一から始める規格」というよりも、「既存の活動を体系的に整理し、継続的に改善していくための枠組み」と考えると理解しやすくなります。
ISO45001の要求事項は箇条4〜10が中心になる
ISO45001の中心となる要求事項は、箇条4から箇条10の7つの箇条で構成されています。
| 箇条 | タイトル |
|---|---|
| 箇条4 | 組織の状況 |
| 箇条5 | リーダーシップ及び働く人の参加 |
| 箇条6 | 計画 |
| 箇条7 | 支援 |
| 箇条8 | 運用 |
| 箇条9 | パフォーマンス評価 |
| 箇条10 | 改善 |
初めてこの一覧を見ると、それぞれが独立した要求事項に見えるかもしれません。しかし実際には、これらは安全衛生活動を継続的に改善していくための一本の流れとしてつながっています。
ISO45001担当者が最初に意識したいのは、各箇条をばらばらに覚えることではありません。箇条4から箇条10までが、どのような順番で労働安全衛生マネジメントシステムを動かしているのかを理解することです。
次のセクションで、その流れをPDCAの考え方に沿って整理します。
PDCAで見ると、ISO45001の構造が見えてくる
ISO45001の箇条4〜10は、PDCAサイクル(Plan・Do・Check・Act)の考え方に沿って理解すると、各箇条の役割と関係性が整理しやすくなります。
Plan(計画する)|箇条4・5・6
PDCAの「Plan」にあたるのが、主に箇条4・5・6です。
まず箇条4では、自社を取り巻く状況を整理します。業種、作業内容、働く人、関係者のニーズや期待、内外の課題などを把握し、労働安全衛生マネジメントシステムの前提を明確にします。
箇条5では、トップマネジメント(経営層)のリーダーシップと、働く人の参加が求められます。ISO45001は、安全衛生担当者だけが動く仕組みではありません。トップマネジメントが方針を示し、必要な資源を確保し、現場の働く人が参加できる体制をつくることが重要です。
箇条6では、危険源の特定、労働安全衛生リスク及び機会の評価、法的要求事項及びその他の要求事項の把握をもとに、労働安全衛生目標と実施計画を定めます。ここは、ISO45001の中でも特に実務との結びつきが強い部分です。
Do(実行する)|箇条7・8
PDCAの「Do」にあたるのが、箇条7と箇条8です。
箇条7では、安全衛生活動を支えるための土台を整えます。必要な力量の明確化、教育訓練、働く人の認識、コミュニケーションの仕組み、文書化した情報の管理などが含まれます。
箇条8では、現場での実際の安全衛生活動を運用します。危険源に対する管理策、設備や作業の変更管理、調達、請負業者の管理、外部委託、緊急事態への準備及び対応などが対象です。計画を実際の現場に落とし込む箇条とも言えます。
Check(確認する)|箇条9
PDCAの「Check」にあたるのが、箇条9です。
実施した安全衛生活動が計画どおりに機能しているか、目標に対してどのような結果が出ているかを確認します。監視、測定、分析、評価、法的要求事項及びその他の要求事項への順守評価、内部監査、マネジメントレビューなどが含まれます。
「やりっぱなしにしない」というのが、この箇条の重要な考え方です。安全衛生活動を実施するだけでなく、その有効性を確認し、次の改善につなげることが求められます。
Act(改善する)|箇条10
PDCAの「Act」にあたるのが、箇条10です。
不適合、労働災害、ヒヤリハット、内部監査の指摘、働く人からの意見などをもとに、是正処置と継続的な改善を行います。ISO45001では、仕組みを構築して終わりではなく、実績や経験をもとに仕組みそのものを改善し続けることが重要です。
箇条ごとに「担当者として最初に確認すること」
全体の流れを理解したうえで、初めて担当する方が各箇条を見るときに意識したいポイントを整理します。
ここでは細かな要求事項の解説はせず、「担当者として最初に何を確認すればよいか」という観点でまとめます。
箇条4|自社の状況を整理する
まず確認したいのは、「自社にとっての安全衛生上の課題は何か」という点です。
業種や作業の特性、働く人の構成、関係者のニーズや期待、過去の災害やヒヤリハットの傾向などが出発点になります。また、ISO45001がどの範囲に適用されているかを確認しておくことも重要です。
たとえば、対象となる事業所、部門、作業、働く人、請負業者との関係などを整理しておくと、その後の要求事項も理解しやすくなります。
箇条5|経営層の関与と働く人の参加の仕組みを確認する
次に、労働安全衛生方針が定められているか、トップマネジメントが安全衛生活動にどのように関わっているかを確認します。
また、働く人が意見を出せる場や、危険源・リスクに関する情報を共有できる仕組みがあるかも重要です。安全衛生委員会、職場巡視、ヒヤリハット報告、改善提案などが、実際に機能しているかを見ておくとよいでしょう。
ISO45001では、働く人の参加と協議が重視されます。担当者だけで仕組みを抱え込むのではなく、現場の声をどのように取り入れているかがポイントになります。
箇条6|リスクアセスメントと法的要求事項の管理を確認する
箇条6では、危険源の特定、労働安全衛生リスク及び機会の評価、法的要求事項及びその他の要求事項の把握が重要になります。
初任担当者は、まず次の点を確認するとよいでしょう。
- 危険源をどのように特定しているか
- リスクアセスメントの手順や評価基準があるか
- 評価結果が管理策や目標に反映されているか
- 法的要求事項及びその他の要求事項をどのように把握しているか
- 労働安全衛生目標と実施計画があるか
この箇条は、ISO45001の実務において特に重要な位置づけにあります。後の運用、教育、監視、改善にも大きく影響するため、早めに全体像を把握しておきたい部分です。
箇条7|教育、力量、文書管理の状況を確認する
箇条7では、安全衛生活動を支えるための資源や仕組みを確認します。
特に重要なのは、必要な力量が明確になっているか、安全衛生教育が計画的に実施されているか、働く人が自分の作業に関係する危険源やルールを理解しているかという点です。
また、作業手順書、教育記録、点検記録、リスクアセスメント記録など、文書化した情報の管理状況も確認しておく必要があります。
事務局担当者にとっては、「どの文書や記録が、どの要求事項に関係しているのか」を早めに整理しておくと、審査対応や維持運用を進めやすくなります。
箇条8|現場の管理策と変更管理を確認する
箇条8では、計画した内容が現場でどのように運用されているかを確認します。
危険な作業に対してどのような管理策が講じられているか、作業手順やルールが現場で守られているか、設備や作業方法を変更するときにリスクを見直す仕組みがあるかを確認します。
また、請負業者や外部委託先の安全衛生管理も重要です。自社の従業員だけでなく、同じ職場で働く関係者に対して、必要な情報共有や管理が行われているかを見ておくとよいでしょう。
緊急事態への準備及び対応についても、手順書があるだけでなく、訓練や見直しが行われているかを確認することが大切です。
箇条9|活動の確認・評価サイクルを把握する
箇条9では、安全衛生活動の実施状況や成果を確認します。
担当者としては、次のような仕組みがどのように運用されているかを把握しておきたいところです。
- 監視、測定、分析、評価
- 法的要求事項及びその他の要求事項への順守評価
- 内部監査
- マネジメントレビュー
- 労働災害やヒヤリハットの傾向分析
- 労働安全衛生目標の進捗確認
特に、年間でどの時期に内部監査やマネジメントレビューを実施しているか、法令順守評価をどのタイミングで行っているかを把握しておくと、担当者として計画的に動きやすくなります。
箇条10|不適合・事故への対応方法を確認する
箇条10では、不適合や事故が発生したときの対応と、継続的改善の仕組みを確認します。
労働災害、ヒヤリハット、内部監査の指摘、法令順守評価での問題点などが発生した場合、どのように報告し、原因を分析し、是正処置を行っているかを見ておくことが重要です。
また、是正処置を実施して終わりではなく、再発防止策が有効だったかを確認する仕組みがあるかも確認しておきましょう。
ISO45001では、問題を隠すのではなく、改善につなげることが大切です。担当者としては、不適合や事故を「責任追及の材料」ではなく、「仕組みをよりよくするための情報」として扱う視点を持つことが重要です。
初めてISO45001を担当するときの動き方
ここまでの内容をふまえて、初任担当者が最初にどのような順番で動けばよいかをまとめます。
ステップ1:適用範囲を確認する
まず、ISO45001がどの事業所、部門、作業を対象にしているかを把握します。
適用範囲が曖昧なままだと、どの活動や記録を確認すべきかが見えにくくなります。最初に適用範囲を確認することで、担当者として見るべき対象が明確になります。
ステップ2:既存の安全衛生活動を洗い出す
次に、安全衛生委員会、リスクアセスメント、安全教育、職場巡視、作業手順書、災害報告、健康診断、メンタルヘルス対策など、すでに行っている活動を一覧化します。
ISO45001に取り組むとき、すべてを新しく作り直す必要があるとは限りません。まずは既存の活動を把握し、どの活動がどの要求事項に関係しているかを整理することが重要です。
ステップ3:既存活動とISO45001の要求事項を対応づける
ステップ2で洗い出した活動が、ISO45001のどの箇条に対応するかを確認します。
たとえば、リスクアセスメントは箇条6、教育訓練は箇条7、作業手順や管理策は箇条8、内部監査やマネジメントレビューは箇条9に関係します。
このように対応づけることで、「すでにできていること」と「不足していること」が見えやすくなります。
ステップ4:リスクアセスメントと法的要求事項の管理を重点確認する
箇条6に関わるリスクアセスメントと法的要求事項の管理は、ISO45001の実務において特に重要な位置づけにあります。
現状の仕組みがどうなっているか、評価結果が現場の管理策や目標に反映されているか、法的要求事項の改正情報をどのように把握しているかを早期に確認しておくと、その後の運用がスムーズになります。
ステップ5:年間活動のスケジュールを把握する
最後に、内部監査、マネジメントレビュー、目標管理、順守評価、安全衛生教育、職場巡視などが、年間でどのように実施されているかを確認します。
業種や組織の規模によってスケジュールは異なりますが、全体の流れをつかんでおくことで、担当者として先回りして準備しやすくなります。
まとめ|まず全体像をつかむことが、担当者の出発点
ISO45001は、要求事項を一つずつ細かく暗記するよりも、まず全体の仕組みを理解することが大切な規格です。
箇条4〜10は、次のような流れでつながっています。
- 自社の状況を把握し、適用範囲を明確にする(箇条4)
- トップマネジメントが関与し、働く人が参加できる体制を整える(箇条5)
- 危険源、労働安全衛生リスク及び機会、法的要求事項をもとに計画を立てる(箇条6)
- 教育、力量、コミュニケーション、文書管理などの支援を整える(箇条7)
- 現場で安全衛生活動を実際に運用する(箇条8)
- 実施状況や成果を確認・評価する(箇条9)
- 不適合や事故をもとに改善を行う(箇条10)
この流れが、PDCAサイクルとして継続的に回り続けることで、職場の安全衛生水準の向上につながります。
ISO45001担当者として最初に目指すべきは、「要求事項をすべて説明できること」ではありません。自社の安全衛生活動が、ISO45001要求事項のどの流れの中に位置づけられるかを理解することです。
最初から完璧に理解しようとしなくても大丈夫です。全体の流れを頭に置きながら、一つひとつ確認していきましょう。
次回予告|箇条4「組織の状況」を実務でどう読むか
次回は、ISO45001の箇条4「組織の状況」について取り上げます。
「組織の状況」という言葉は、初めて読むとやや抽象的に感じるかもしれません。しかし実務的には、「自社の安全衛生に影響する内外の要因をどう整理し、どのように労働安全衛生マネジメントシステムに反映させるか」という、非常に具体的なテーマです。
担当者が現場でどのように確認し、どのような視点で整理すればよいかを、わかりやすく解説します。
このシリーズは、ISO45001を初めて担当する安全衛生担当者・事務局担当者の方に向けた全10回の入門ガイドです。

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